一般的に「アプライアンス」とは、「器具」や「家具」や「電化製品」など全般を指す用語だが、特にIT用語としては、「特定の用途で使われるように最適化された機械や器具(コンピュータ)」のことを指す。つまり、「アプライアンスサーバ」と言ったときには、特定の用途向けに設計、開発されたサーバのことである。
インターネット調査会社のIDCではアプライアンスサーバというカテゴリを、「ネットワーク対応で、特に限定された単一のアプリケーションサービスを提供するためにデザインされた製品。ノンプログラマブルでシステムの事前設定が施されたシールドシステム。さまざまな機能に最適化されたシステム、およびオペレーティングシステムとチップセット上で動作する。ハードウェアの更新はできないが、リモートアクセスによってアプリケーションとOSの更新を行う仕組みを持つ製品」と定義している。
アプライアンスサーバのメリットは、まず汎用サーバと比較して低コストで導入でき、短期間でサービスを稼動できる点だ。サーバ機器本体に、特定の目的に必要なサーバソフトウェアがあらかじめインストールされ、通信環境に応じた複雑な設定は不要、あるいは容易に行えるように工夫されている。
また費用面では、目的の用途に欠かせない機能に絞り込まれているため、一般的に汎用サーバに目的の機能を実装していくより低価格で必要な要件を満たせる。また、1台でさまざまな処理を担う汎用サーバと違って、負荷が少ない分だけレスポンスが高く、特定用途のサービスのパフォーマンスが最適化できる特徴もある。
運用管理においても、使いやすいユーザインターフェースを持つ管理ツールが備わっていることが多く、ユーザーにとって使いやすいというメリットがある。
一般的なPCやサーバは、ユーザーがハードウェアやソフトウェアを自由に構成することができ、さまざまな用途に利用できる反面、利用するユーザーには内部構造に関する知識や利用や運用に必要な知識および技術の習得が求められる。これに対してアプライアンスは、自由度はないものの、本来の意味である「家電製品」などに近い感覚で、技術に関する詳細な知識がなくても使い方が理解でき、トラブルなく運用できることが求められる。
さまざまな用途に使われるアプライアンスサーバ
アプライアンスという用語がコンピュータ、ネットワーク業界で頻繁に使われるようになったのは1990年代末である。アプライアンスサーバの元祖というと無理があるかもしれないが、その概念が脚光を浴びるきっかけとして大きな役割を果たしたのはコバルト・ネットワークスのインターネットサーバアプライアンス「Cobalt Qube」だろう。ウェブ、メール、DNSに加え、ファイル共有やパケットフィルタリング、ファイアウォール、NATなどの機能を1台に実装したオールインワンサーバであった。アプライアンスサーバという用語をIT業界に広めるきっかけになった製品といえるだろう。同社は、2000年にサン・マイクロシステムズに買収され、その後、コバルト製品の販売は終了している。
その後、これまでに数多くのアプライアンスサーバ製品が登場してきた。現在、このカテゴリを大きなくくりで見ると、ネットワーク、セキュリティ、ファイル共有などの分野で数多くの製品が提供されている。
ネットワークインフラ系のアプライアンスサーバには、ウェブサーバ、メールサーバ、キャッシュサーバなどのアプライアンスがある。ホスティング事業者のサービスインフラ、あるいはイントラネット構築のためのビルディングブロックとして需要を伸ばしたこれらのアプライアンスサーバだが、汎用サーバのハードウェア価格の低価格化や、オープンソース系のインターネットサービスアプリケーションの台頭などがあり、2002年以降は市場は縮小している。
その一方で、ロードバランシング(負荷分散)に特化したアプライアンスサーバである「ロードバランサー」の導入は進んでいる。ロードバランサーには、一般的にサーバの負荷を分散する製品と回線部分の冗長化、負荷分散を図る装置がある。また、最近ではファイアウォールやSSL(Secure Socket Layer)アクセラレータと統合されて負荷分散機能を提供する製品もある。