ITの世界に大きな変化が起きた場合でも、その意味するところが常に明らかなわけではない。従って大規模な組織は、リスクを見越して、成り行きを静観する姿勢を見せる傾向が強い。しかし時には、変化がコスト削減や業務の改善、あるいは重要な戦略的優位をもたらすビジネス課題に取り組む手段をもたらしてくれる場合もある。これらの分野で得られる利点が大きいほど、その進歩はより戦略的なものであると言え、また決算に影響を与える可能性も高くなる。
クラウドコンピューティングは、急速にそのような大きな変化の1つとなりつつあり、Amazon(Amazon Web Services)、Salesforce(Force.com)、Google(Google App Engineを含む多くのサービス)の提供するクラウドサービスの何十万もの顧客は、Fortune 500企業も含めて、この分野に関心を抱いており、大きな契機を見ている。
クラウドコンピューティング:リスクと便益の微妙なバランス
はっきりさせておくが、マイナーなアプリケーションのいわゆる「先端的」なコンピューティングや、必要不可欠ではないビジネスシステムに関してさえ、クラウドコンピューティングの導入には、まだ答えの分かっていない問題や、特有の課題があることが分かっている。その中でも目立った問題には、クラウドに保存される企業データのセキュリティ、クラウドプラットフォームベンダーへのロックインのリスク、他人が運営・管理しているクラウド資源にはコントロールができないこと、信頼性の問題などがある。
その逆に、潜在的なマイナス面を積極的に管理する意欲のある多くの企業にとっては、利点のいくつかはゲームそのものを変える可能性さえある。そのような利点には、システムの大規模化のスピードや、これまでよりも安くITシステムを運用できるという点で、過去にあったものとはまったく異なる次元の規模と経済性が得られるということが挙げられる。インフラストラクチャのチェンジマネジメントを簡単にしてくれるという面では、メンテナンスやアップグレードが不要(クラウドベンダーは、基盤要素の交換や改善をサービスを中断せずに行えるよう、広範囲にわたって仮想化を行っている)、ソリューションを実現するスピードなどの利点があり、クラウドの互換性が実現した暁には、ベンダーを選択できる利点も大きくなる。クラウドコンピューティングは非リレーショナルデータベース、新しい言語、拡張性に眼目を置いたフレームワークなどの、新たな技術的進歩への入り口も提供してくれるほか、最近のウェブ上で使われるID管理技術、オープンサプライチェーン、その他の新しいイノベーションを活用することも可能にしてくれる。
実際、クラウドコンピューティングは、それが社内でのみ使われる場合であっても、導入した企業に劇的な変化をもたらす可能性を秘めている。これらの可能性は、まだ明らかになり始めたばかりだが、ある程度の輪郭を知ることはできる。