「ERPの定義」を専門家に聞いてみたところ、即座に「ただのパッケージだよ」という答えが返ってきた。そう答えたのは、ITR(アイ・ティ・アール)のプリンシパル・アナリストである浅利浩一氏だ。浅利氏は、日本たばこ産業株式会社においてERPをビッグバン導入するなど、ERPを知り尽くしたITコンサルタントであり、大学の経営学部でERPについて教える先生でもある。
歴史的には突如として登場したERP
「かつて博士課程で調べたことがあるが、“ERP”という学問はない。ERPの定義として、“経営手法の1つ”であると記述している論文は存在する。だが、経営手法としてERPを扱った論文は皆無だ」と浅利氏は言う。つまり、ERP自体に経営学的な背景はなく、突如として登場したものであるというわけだ。
ERPの起源については、70年代に米国の製造業において普及した生産管理手法であるMRP(Material Requirements Planning)があり、それが80年代に入ってMRP II(エムアールピー ツー、Manufacturing Resource Planningの略)に発展。そしてMRP IIに会計や人事などの業務管理機能が追加されて、今日のERPになったという説が一般的であるようだ。
MRPは「資材所要量計画」と和訳され、在庫に注目して生産計画を立てる管理手法のことである。BOM(部品表、Bill of Materialsの略)から生産に必要となる資材(部品や原材料)の総量を算出し、そこから在庫(部品在庫や仕掛品)を引き当て、正味所要量を算出する。資材のリードタイムや出荷量を考慮して発注量を決める。在庫を最小化するのに役立つのがMRPだ。
一方、MRP IIは「製造資源計画」と和訳される。MRPを発展させ、資材だけではなく製造能力(ヒト、モノ、カネ)を考慮に入れて生産管理を行う手法。資材所要量に加えて、必要となる生産能力や、生産活動に関係する人員、設備、資金も考慮し生産計画を立てる。考慮すべき要素の数が多く複雑な手法となる。
多くの見方に従えば、ERPになると、さらに要素が拡大されて、会計や人事などの生産工程に直接関係しない基幹業務についても考慮する。基幹業務全般にわたる要素を統合管理し、「企業資源計画」を立てるのがERPだということになる。