「スーパーコンピュータ」が、ここにきてちょっとした話題となっている。
というのも、2012年度の完成を目指して開発が進められている理化学研究所の「次世代スーパーコンピュータ」で、久しぶりに日本が世界最高速の座を奪還することになりそうだからだ。これが実現すれば、2002年にNECが稼働させた「地球シミュレータ」以来、実に10年ぶりに首位の座が米国から日本へと戻ることになる。
開発中の次世代スーパーコンピュータは、文部科学省の最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用プロジェクト(通称・次世代スーパーコンピュータプロジェクト)の一環として進められているもので、2006年から概念設計を開始。スパコンTOP500ランキングの指標となっているLINPACK性能において、10ペタFLOPSの実現を目指すことになる。
現在の世界最高速スパコンは、IBMが開発した米Los Alamos National Lab.の「Roadrunner」が達成している1.1ペタFLOPS。次世代スーパーコンピュータは、これの約9倍の性能を誇ることになる。
しかも、注目を集めているのは、性能ばかりではない。
この開発計画においては、当初は、スカラ部とベクトル部の複合システムとして設計されてきたのだが、ベクトル部の開発を担当していたNECおよび日立製作所が、今年5月に詳細設計以降の試作・製造段階への不参加を表明。結果として、富士通によるスカラ単独構成で開発されることとなり、世界一への挑戦は、富士通1社の技術に委ねられることになるのだ。
だが、富士通はこの挑戦に自信を見せる。というのも、富士通には、45nm半導体プロセスを用いた、開発中のCPU「SPARC64 VIIIfx」の存在があるからだ。
開発コードネームで「Venus(ビーナス)」と呼ばれたSPARC64 VIIIfxは、128GFLOPSの性能を持つ世界最高速のCPU。これを数万個搭載することで、世界最高性能のスーパーコンピュータを構成することになる。富士通の関係者は、「世界最高性能のスーパーコンピュータを開発し、世界一を奪還する」と鼻息が荒い。
この次世代スーパーコンピュータによって、いよいよペタスケールコンピューティングの時代へと突入することになる。
利用分野は先端的な研究開発分野が中心となるが、ここにきて見逃せない動きとなっているのが産業分野での利用だ。
実際、スパコンTOP500ランキングのうち、サイト数では約6割が産業界におけるもので、エネルギー、自動車、金融、半導体など、幅広い業態で利用されているという。
さらに、化学や宇宙業界、製造などの業種では、高性能のスパコンを自社導入しているにも関わらず、TOP500ランキングへ登録していないケースもあり、実態としては、もっと多くの企業が、高性能のスパコンを導入しているというのが関係者に共通した認識だ。「100テラFLOPS規模のスパコンを導入していても、自らの研究開発力を対外的に公表することを嫌って、登録しないという企業が少なくない」(富士通)というわけだ。
現在、産業界において最高性能を誇るのは、インドのタタグループが導入しているスパコンで、180テラFLOPSを超える性能を誇るという。
産業界における利用分野は、構造解析、衝突解析、流体解析、気象予報、計算化学といった領域において、企業の研究開発で実用化されているほか、ナノ・材料、バイオ、連成解析・マルチスケール解析、金融工学といった領域でも、スパコンがすでに利用されているという。
富士通でも、カーボンナノチューブを半導体材料として活用する研究や、サーバやノートPC、携帯電話における静電気解析および漏洩電波解析、コンピュータなどに加わる振動・衝撃のシミュレーション、コンピュータ内部の空気と熱の流れをシミュレーションする流体解析などで、スーパーコンピュータを活用しているという。
「試作回数が減ったり、試作レスが可能になる。また、個別解析ごとの検証が不要になり、電気・機構と一括した検証検証が可能になるほか、設計検証に要する時間を大幅に削減できる」と、その効果を示す。
そして、ペタスケールコンピューティングの時代においては、産業界での応用が活発化することにより、日本の産業競争力の強化が期待できるとする。
2012年には、産業界においてもペタFLOPS規模のスーパーコンピュータが導入されることになるだろう。また、大規模計算リソースの増加と、シミュレーションソフトの進化、クラウドコンピューティングの進展とともに、スパコンの産業利用は一気に増加する可能性もある。
スパコンといえば先端的な研究開発への活用というイメージが強いが、実は、我々が思っている以上に、産業利用も進展しているのだ。