前回(仕事で扱う「データ」のことを少しだけ本気出して考えてみないか?)は、データ活用における「マスタデータ」の重要性について考えた。その中で「マスタデータは割と固定的なデータ」と書いたが、実際のところ意外とよく変化するのだ。
たとえば「顧客」のデータは、春になると転勤や進学などに伴って「住所」や「所属」が変わりやすい。あるいは「製品」に関連するデータであれば、製品を構成する「部品」が変わりやすい。部品が変わると原価も変わるため、それが正しく変更されていないと会計上、非常にマズいことになる。ビジネスインテリジェンス(BI)を用いるときも、参照するデータの正確性が重要だと言いたかったのである。
インテリジェンスとは「判断、行動するための知識」
「BIを使う」ということは、平たく言えば、「ビジネスに関連するデータを収集、分析して、ものごとの状況を判断し、これからの行動を決定していく」ということだろう。だが、そもそも「BI」の「I」が表す「インテリジェンス」とは何のことなのだろうか。今回は、そのことを掘り下げてみたい。
「インテリジェンスとは何か」については、外務省出身で国立情報研究所教授、政策研究大学院大学教授等を歴任し、インテリジェンス研究家として知られる北岡元氏の著書に詳しい。それによれば、「インテリジェンスの本質」とは「判断、行動するために必要な知識」であると説明されている。
もともとインテリジェンスの理論は、国家安全保障の世界において、対象国の動きを事前に予測する活動に由来する。いわゆるCIA(Central Intelligence Agency)やKGB、あるいはイスラエルのモサドなどが得意とする、軍事あるいは諜報活動の世界で磨き上げられた理論だ。この理論をビジネスに適用したのが、BI(ビジネスインテリジェンス)というわけだ。
インテリジェンスは「インフォメーション」から生産される。インフォメーションとは、移ろいやすい現実を、言葉や写真、映像など、何らかの方法で写し取ったものと言える。では、どんなインフォメーションからインテリジェンスは作られるのだろうか。
材料となるインフォメーションによって、生産されるインテリジェンスは区分されている。伝統的な分類法によれば、インテリジェンスは「ヒュミント」「シギント」「イミント」の3つに分類されるという。かなり「スパイ」的な雰囲気がある言葉だ。
インテリジェンスの生産は、インフォメーションを収集することから始まる。インフォメーションは特殊なカメラで撮影されていたり、傍受に備えて暗号化されていたりするので、そのままでは扱いにくい。そこで分析できるよう、データを変換するなどの加工が必要になる。さらに様々なインフォメーションを統合し、分析し、解釈が加えられて、ひとつのインテリジェンスに仕立て上げられる。
上図に示したように、たとえばテロ対策のためにインテリジェンスを要求する大統領が存在し、その要求を受けて活動する情報サイドのCIA分析官が存在する。図のような一連のインテリジェンスを生産する工程のことを「インテリジェンス サイクル」と呼ぶ。インテリジェンスを生産したいと考えるのなら、このサイクルを頭に入れておくことが重要である。