前回(BIツールのカタログ、意味わかりますか?--BIアーキテクチャから学ぶ初歩のBI用語)は、ビジネスインテリジェンス(BI)ツールについて、BIアーキテクチャを眺めながら、各要素に関連するツールや用語について理解した。今回は、BIの最新動向について見ていこう。
経済環境がなかなか回復しない中、それでも企業のデータ活用、データ分析に対する意欲は衰えていない。その理由として「過去データから見えるパターンに当てはまらない変化が頻繁に起こるようになったから。過去のデータではなく、生のデータをあらゆる角度から分析したいというニーズが高まっている」と言うのは、アイ・ティ・アール(ITR)のシニアアナリストである生熊清司氏だ。
かつてのBIでは、会計システムや在庫システムから抜き出したデータをデータウェアハウス(DWH)に蓄積し、ある程度の期間で集約した過去データをOLAPツールで分析して傾向を見てきた。しかし現在において、同様の方法で分析を行っても傾向がバラバラで、そこから意味のある知見を見い出せないという。
生熊氏はこの状況を「今の世の中、傾向がない」と表現する。「変化のサイクルが早過ぎてパターン化できない」……それが、今までになかった新たな分析ニーズにつながっているようだ。
過去を見ても、現在の傾向は見えない
ファストファッション系やウェブショップ大手は、「“現在”という事象を見える化し、即座に意思決定している」と生熊氏は話す。
例えば、ZARA(ザラ)ブランドを展開するスペインのインディテックスグループでは、世界中からデータを集め、新製品を1週間ほどで開発し、全世界の店舗を通じてわずか1カ月ほどで売りさばいてしまうという。「もはや季節ごとのファッションではなく、その都度ファッション」(生熊氏)といった様相だ。
過去のデータを読み込んで長期間の傾向を見るよりも、「今」を見た方が正しいと考える企業や、変化には連続性がないものととらえている企業の方が、今のところ成功しているように見える。「今成功している新しい商売のやり方は、たいへんスパンが短く、サイクルが早く、非連続的な変化に対応する。だからこそ、分析を重視する」という。
これまで企業は、戦略を立て、その戦略に則して戦術を決め、活動を展開してきた。ところが最近では、立案した戦略自体がすぐに陳腐化してしまい、戦略を立てている暇がないほどだ。私たちは立てた戦略に則ろうとする意識が働きがちだ。いったん立てた計画については、もしかすると上手くいかないかもしれないと思っていても貫こうとしてしまう。しかし、現在はそうした考え方ではうまくいかないようだ。生熊氏は「戦略自体が足枷になりつつある」とさえ指摘する。
「できるだけショートタームに事象を見て意思決定する。それを日々行っていくしかない。今日のデータを見て、明日を決めるのだ」(生熊氏)
日々、意思決定をする人にはプレッシャーがかかるだろうが、新しいテクノロジに取り組みやすい環境は整いつつある。ただ、昔のような「傾向」がないため、とにかく分析を試し続けるしかない。当然、分析が失敗する可能性もある。そのため、新たなBIのためのハードウェアやソフトウェアを一式で購入するのはリスクが大きい。そこでAmazonなどのクラウドを使って、とにかくデータを放り込んで試してみて、上手くいくようなら本格的な投資を考えればいいという取り組み方も有効になってくる。
「とにかく変化が前提。確かなものはない、ということを前提とした経営あるいはITが、今にマッチしている。過去は重要だが、必ずしも過去の通りにいかない時代であることを再認識して、今起こっていることは何か、というファクトを見て分析し、スピーディに意思決定できるようにしておきたい」(生熊氏)
今を見て、明日を決める。そのためには、BIツールは膨大な量のデータを飲み込み、かつてないほど高速に分析処理する必要がある。BIツールの世界におけるトレンドは、そうしたニーズを反映したものになっている。