DHLのウェブサイトへ行くと、左上の一番目立つ場所が極めてシンプルな入力エリアになっている。何を入れるかと言うと、荷物の配送状況を確認するためのリファレンス番号である。これは、どこの国のサイトへ行っても同じである。
そこからリファレンス番号を入力すれば、荷物をDHLに引き渡してから送付先に届くまで、世界のどこにあるのかが逐一判る仕組みになっている。要は荷物がチェックポイントを通過する度にシステムへ反映され、それをウェブから追いかけることができる。
一方、お金を海外へ送金すると、その状況をウェブで確認することはできない。海外送金は物理的なお金を送るわけではないため、むしろシステム的に状況をトラックすることは容易に思われるが、実際にはそうではない。そもそも、海外送金においては、送金を依頼する銀行と送金を受ける銀行とが異なっているケースが多い。
それは、荷物を直接家やオフィスへ届けるのと違って、お金はこちらの保有する銀行口座から相手の保有する銀行口座へ送るからである。そして、その間では、金融機関の共同出資にて運営される「SWIFT」というネットワークを通じて依頼が行われる。
つまり、単一の金融機関にて処理が終わらないので、送金の始まりから終わりまでの全体のプロセスを押さえられないのだ。さらに、送り側も受け手側も銀行口座を持っているというのが前提となるので、口座を持てない人たちにとってみるとコストが高いうえに甚だ不便な仕組みなのである。しかし、こうした状況も資金決済法の改正で、銀行以外も送金業務に参入できることとなり、状況が変わろうとしている。
最近、ニュースにもちょくちょく出ているので気付かれた方も多いかと思うが、SBIが設立する予定の「SBIレミット」は、MoneyGramと提携し、その代理店ネットワークを活用して国際送金に参入する。通常の銀行のサービスと異なるのは、 「手続完了後10分程度で、世界中にあるMoneyGram代理店で送金を受け取れるようになる」(CNET Japan記事からの引用)点だ。
銀行送金であれば複数金融機関をまたがるので、どうしても送金が確認できるまで複数日かかる。それに対して、単一オペレーターが送金処理を行えば、お金の受け取りさえ確認できれば、相手方への払い出しをすぐ行えるというわけだ。物理的なモノを送っているわけではないので、これは本来実に自然なサービスなのであるが、銀行では容易に実現できない。
セブン銀行も海外送金大手のWestern Unionと組んで同事業に参入することを発表している(PDF形式)。こちらも代理店網を活用した単一オペレーターモデルなので、送金後数分で受け取りが可能になるとしている。Western Unionの手数料体系は送金金額に応じて決められるため、小額送金を頻繁に行いたい海外からの出稼ぎ労働者には便利である。
この点、プライシングが金額の多寡によらない銀行の海外送金とは異なるところである。ただし、セブン銀行の場合は自社のATM網も活用するので、手数料がどのような体系となるかは判らない。
ただ、このような海外送金業務への新規参入は、即時受取などサービスレベルの向上が見込めることと、小額高頻度な送金など、従来では無視されていた顧客層をターゲットとした新しいビジネスモデルの登場を意味する。今後も、リテール分野においては規制の緩和によるサービスレベルの向上を期待したい。
筆者紹介
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。
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