世界の6割を占める、日本のLinux認定技術者
Linux市場を支える人材育成を目的に、世界共通のLinux技術者認定資格「LPIC(Linux Professional Institute Certification、エルピック)制度ができたのは1999年のことである。日本では翌2000年1月にエントリーレベルである「Level 1」の英語版、続いて10月には日本語版の試験がスタートした。
以来、内容も「Level 2」、そして2007年1月からは「Level 3」まで拡張、国内での受験者数はこの4月に7万4000人を突破した。
「合格者数は、サーバ構築などが可能なLevel 1が2万人、ある程度のシステムインテグレーションができるLevel 2が4600名で、これまでに合計2万5000人ほどの認定者が生まれています。この業界では、デファクトスタンダードとしての認定資格になったと思っています」と話すのは、創設以来、理事長としてLPI-Japanを引っ張ってきた成井弦氏である。
LPIはカナダのトロントに本部を持つ世界的組織である。だが、その中で日本のLPI-Japanは組織的にも確立されており、また受験者数、認定者数とも全世界の約6割と、群を抜いた実績を誇る。その理由について、成井氏は次のように分析する。
「まず、LPI-Japanには日立、富士通、NECなど、日本を代表する大手コンピュータベンダーがプラチナスポンサーとして参画しており、組織的な取り組みがしっかり行われています。また、日本は携帯電話などの組み込みLinuxに対するニーズが高いですし、世界のメインフレーム4社のうち3社は日本にあります。LinuxはメインフレームのOSとして採用が進んでいますので、やはりLinux技術者が求められるわけです。さらに、日本が強いロボティクスの分野もLinuxベースでの開発が多く、ゲームや携帯電話のソフトウェア開発にもLinuxが使われています。つまり、日本でLPICの認定技術者が多いというのには、それなりの理由があると思っています」(成井氏)
新しく認定が始まった最上位レベルのLevel 3は、エンタープライズレベルの実践的で高度な知識、技能を有するLinuxプロフェッショナルを認定するものだが、世界でこの資格取得者第1号となったのも日本のエンジニアだった。
LPIの中で強まる日本の発言権
日本には、Linux技術者を求める土壌があったというが、世界の中でLPIの活動がここまで成功している例はきわめて希だという。
LPIはNPOとして認定試験を行っているが、こうした認定試験は市場でナンバー1でないと価値がない。技術者も市場も、「2位以下の資格」には高い評価を与えない。従って、組織運営的には「マーケティング」のパワーが要求されるというわけだ。
同氏はさらに、他のOSS系のコミュニティにも同じことが当てはまると指摘する。技術指向が強すぎたり、また「正義感」のみに突き動かされて組織を作ったような場合、収支の管理などがうまくいかず、途中でとん挫するケースが多いという。これまでもオープンソースに対する組織的な取り組みは数多くあったが、マネジメントの観点でうまくいったケースは希だ。これは、OSSの今後の発展を考える上でもあらためて考えてみるべき課題ではないだろうか。
その点で成功しているLPI-Japanは、世界のLPIの中でも発言権が強い。今年からスタートしたLevel 3の認定も、国内のベンダーからの要望がかなり取り入れられている。さらにその開発費用もすべて日本で負担しているという。
だが市場には、ディストリビューターが独自に運営している技術者認定制度もある。こうしたいわゆる「ベンダー資格」とLPICの違いについて、成井氏はこう説明する。
「まったく競合するものではありません。例えば、Red Hatの認定資格は、Red Hatの製品をサポートするSIerなどでは価値の高いものだと思います。しかし、世の中にはいろいろなLinuxディストリビューションがあります。LPICはこうしたディストリビューションに特化しないだけでなく、ハードウェアベンダーにも依存しません。ソフト、ハード両面からの中立性があります」(成井氏)