ITの価値が存在する場所に変化が起きている--米ガートナー ラスキーノ氏

冨田秀継(編集部)

2011-01-03 03:27

 「ITの価値」が存在する場所は、確実に変化した。従来、我々のライフスタイルやワークスタイルを変革してしまうような価値は、大組織(エンタープライズ)で発生していた。しかし、近年は一般消費者向け(コンシューマー)市場で生まれている。

 リサーチ会社の米Gartnerは、この変化を「コンシューマライゼーション」という言葉で表現した。非常に簡潔に説明できるこの変化は、しかし、自社の問題と捉えて「対応」する場合、一筋縄ではいかない。米GartnerのMark Raskino氏(Gartner Fellow兼Vice President)は、「従業員よりも、顧客が使用する技術の方が重要性が高い」と述べ、CIOは顧客向けの技術にフォーカスすべきだと訴えている。

コンシューマライゼーションの意味については、2011年元旦に掲載したインタビュー「リーナス・トーバルズ氏『OSは誰からも見えない存在になるべき』」に詳しい。
Mark Raskino氏 米Gartner Fellow兼VPのMark Raskino氏

 「コンシューマライゼーションはメガトレンドだ」というRaskino氏だが、最も重要なのはIT業界の構造変化にあるという。

 「(コンシューマライゼーションというトレンドで)CIOが抱えている課題というものがある。製品がリリースされてすぐのタイミングでは、ベンダーはまだ企業と商談しようという気がないのだ。CIOが営業マネージャーレベルの担当者から5000台のメディアタブレットを買おうとするのは非常に難しい」

 「だからといって、CIOはコンシューマー側のイノベーションを用いて革新しない、あるいはできないというわけではない。コンシューマライゼーションに対してコーポライゼーションが必要だ。だからこそ、ベンダーは法人向けに提供する前に十分な技術検証を施す必要がある」

 また、IT業界の構造変化という点では、近年クラウドコンピューティングが注目を集めている。クラウドコンピューティングは、ITを売る側と使う側の双方に大きな変化をもたらし始めている。

 Raskino氏は、クラウドはITコストという観点でのみ興味を持たれていると現状を整理した上で、「実際に重要なのは、クラウドビジネスとは一体なんなのかということだ」と課題を設定した。

 「私たちは非常に強力な事例を紹介できる。それは出版業界だ。出版はクラウド技術によって改革を求められており、Amazon、Apple、Googleが業界の将来を握っていると言われている。書籍はもはや所有する“モノ”ではなく、ライセンスを受けたり、またはアクセスする情報となる。著者や出版社に与えられる利益の比率にも変化が起こっており、これまでの業界の慣習は大きく破壊され、コントロールがきかない状況だ。今後、銀行や保険がクラウド時代に突入したらどうなるか、まだ誰もわからない。ただし、こういった戦略上重要なビジネスの可能性がハイプサイクルを経るには四半世紀ほどかかる。クラウドビジネスの真価を金融業界が経験するには、まだ15年くらいかかるのではないか」

 「歴史的に見れば、eコマースは2010年にファストファッションの時代に突入した。H&MやZARA、ユニクロに突如の変革を求めているのがeコマースなのだ。女性向けファッション業界はeコマースを無視し続けてきたが、eコマースは15年前からある技術(分野)。これくらいの長期的な視野で見なければ、ITが与える影響を測れない」

 「CIOも長期的な視点を持つ必要があることを理解すべきで、今年のモデルやトレンドにばかり目を向けてはいけない。シリコンバレーで四半期ごとに変わるようなトレンドは、石油業界や小売業界に与えるような変化ではないのだ」

 ITの価値が存在する場所に変化が起き、さらにITの利用にも変化が起きている。こうした変化が常態化している今、CIOが果たすべき役割は“コスト感覚”だけではないと、Raskino氏は言う。

 「ITは、あまりにビジネスと密接な関係を結ぶようになっており、どの企業であっても収益に大きく影響するようになっている。しかし、エンタープライズITの歴史を紐解けば、ITコストにばかり目が向けられてきたことがわかる。それはもう過ぎ去った。つまり、経営層レベルで新たな収益を生み出そうとする際には、必ずITが関わってくる。iPadアプリケーションの開発、あるいは中国語や日本語での商用ウェブサイトの開設など、すべてのマーケットにアクセスするためにITが必要なのだ」

 「CIOにも新しいスタイルが求められている。新しい収益を提案できるCIO、起業家精神を持ったCIOが必要だ。(今求められている)CIOは、リスクを取る人であり、リスクをオーナーとして持つ人、新しい提案ができる人であり、受け身で社内にサービスを提供するだけの立場ではない。こうした変化は今後10年でますます強調されるだろう」

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