企業情報が見える経営コクピットで戦略とアクションを結ぶ(2/3)

小林 正宗(月刊ソリューションIT編集部) 2004年11月24日 13時00分

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経営コクピットが失敗する3つの原因

 経営コクピットに注目が集まる一方、国内での導入例はごくわずかだ。その原因は、成功例の少なさにある。

ベリングポイント 青柳行浩ディレクター

 ベリングポイントの青柳行浩ディレクターは「数年前に構築した経営コクピットシステムの大半は、『使われないシステム』になっています」と指摘する。同氏によると、経営コクピットを導入した企業から「システムを作ったが社員が活用してくれない」、「必ずしも経営に役立っていない」と泣きつかれるケースが多いという。

 導入がうまくいかない原因は大きく3つある。1つは、システム上に表示されるデータが多すぎるケースだ。経営コクピットは本来、経営層や事業部門長など、各層に応じたデータを表示しなければならない。必要のない情報まで表示されると、情報の取捨選択に手間取ってしまう。結果、アラートに気づきにくくなり、情報の有効性を感じなくなる危険性がある。

 2点目は、経営コクピットシステムの構築担当者が、各層に表示させるデータの意味を充分に理解していないことだ。たとえばある商品が1カ月に10万台売れたとする。ところがコクピット画面上では1万台のまま推移し、突然9万台に増えてしまう。伝票が各支店から月末に集まるためだ。月の大半は数字が動かないため、この動きを追っても経営に役立たない。

 この企業の場合、月末にしか出荷していないとか、出荷しているが伝票処理が追いつかないという問題の解決が必要だ。まずは業務プロセスの変革に向けて取り組まなければならないのだ。

 だがBPR(Business Process Re-engineering)が困難な場合でも、見せ方を工夫する必要がある。ベリングポイントの青柳氏は「売上だけでなく、何らかの伝票が動いているはずです。見込みの数字や計画数値の確度も上がっているでしょう。その推移を見せることが重要です」と話す。

 3点目は、モニタリングしている担当者の能力不足の問題だ。コクピット画面上でアラートが表示されても、次にどのようなアクションを起こせばいいのか分からなければ無意味だ。また、アクションプランを事前に用意していても、それが企業戦略とヒモ付いていなければ、経営の改善は見込めない。

 経営コクピットが使われなくなる要素はまだある。「業務システムなら、利用部門が『使えない』と烙印を押しても、業務が回らないので嫌々でもそれを利用せざるを得ません。しかし経営コクピットは、使わなくても業務が回ってしまいます。しかも、使わないことで追加コストがかからなくなるため、経営層も看過しがちです。こうして徐々に使われなくなる『負のスパイラル』が起こるのです」(ガートナージャパン堀内氏)というのだ。

経営コクピットを成功させる4つのポイント

 経営コクピットを成功させるには、以下の4点が重要だ。

(1) 経営に有益な情報を表示すること
(2) (1)を各階層ごとに、無駄なく的確に分けること
(3) 計画目標を実際の行動プランに結びつけること
(4) 社員が実際に活用するよう工夫すること

 (1)において、企業戦略を部門別目標にドリルダウンし、それを数値化したKPI(Key Performance Indicator:重要業績指標)が必須だ(図2参照)。一般的に、売上高や在庫回転率、受注件数、リードタイムがKPIとして設定されるが、それは各企業により様々だ。たとえば、固定費の割合が大きい航空業界や通信業界では、莫大な初期投資を回収することが重要なため、設備の稼働率が指標となる。一方小売業界では、仕入値やマーケティング費用等の変動費の増減がKPIとなるケースが多い。

図2 戦略をドリルダウンしてKPIを設定

 IBCSフィナンシャルマネジメント戦略コンサルティングの針原立夫マネージング・コンサルタントは、KPIを設定する際の注意点として3点を挙げる。「戦略との整合性がとれていること」、「指標を実際に測定可能なものにすること」、「指標を5〜10程度に収まるようにすること」だ。

図3 BSCを利用した戦略マッピング(クリックすると拡大します)

 また、戦略と各指標をマッピングさせる際、「バランス・スコアカード(BSC)の『財務』『顧客』『業務プロセス』『人材育成』4つの視点を利用するのが効果的」(ベリングポイント青柳氏)だという(図3参照)。

 (2)には、企業戦略と個人のアクションプランをマッピングしなければならない。経営層には、事業別のポートフォリオや将来予測の鍵となる情報、事業部長クラスには、計画策定の材料となる情報を見せるなど、各層のニーズを充分に汲み取る必要がある。

 ここで注意すべきなのは、各事業部単位で業績指標を設定すると、部分最適に陥る危険性が高い点だ。たとえば工場に利益指標を管理させた場合、工場側は自部門の利益を最大化するため生産を拡大し、企業全体としては余剰在庫を抱えてしまう恐れがある。販売側が売上目標に達しない場合、利益を度外視してダンピングする可能性もある。これを防ぐには、組織の壁を越えて業務横断的に活動するCFT(クロス・ファンクショナル・チーム)の設置が効果的だ(月刊ソリューションIT2004年9月号特集参照)。

 (3)の実現に必要な要素として、IBCSの針原氏は以下の4点を挙げている。

  • 数字への洞察力(業務知識)を高める:
    経営データは数字であるため、それだけでは次に起こすべきアクションが分からない。数字から、現在現場で何が起こっているのかを読み取る能力が必要となる。業務知識を高めるため、一部の企業では、財務・経理等の間接部門から、各事業部へ担当者を派遣する動きがあるという。
  • 指標に表示された計画(目標値)の精度を高める:
    計画が曖昧だったり、目標値がいい加減だと、モニタリングの担当者がコクピットに表示された異常を感知することができない。計画の精度と客観性を高める方法として、他社とのベンチマークを実施するのが効果的だ。
  • 人事評価にリンクさせる:
    担当者がコクピットのアラートを読み取っても、行動への動機付けが不十分では、計画があっても実行されない。人事評価制度と結びつければ、社員のモチベーションを高められる。
  • 徹底的にフォローアップする:
    アラートを受けて対策を打った後、フォローアップしないケースは多いという。「その対策に本当に効果があったのか」や「正しく実行されたのか」を確認しなければ、誤ったアクションが繰り返されたり、実行されないままになってしまう。

 (4)を効果的に実践する方法はいくつかある。ベリングポイントの青柳氏は、「各層が見たい情報だけを閲覧できるようにするため、必要な情報だけを発信するPush型の情報発信が効果的」だという。また、フィオシス・コンサルティングの伊藤氏は、「KPIを設定する際、なるべく従来から利用している業績管理指標やを尊重すると、現場からの反発が少ない」と見ている。

まずは最重要な部分からIT化を図る

 経営コクピットの導入・運用に、ITは欠かせない。

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