中央こそ積極的にオープンな技術を--IPA第2回OSS導入実証報告(2)

萩原弘明

2007-05-12 02:04

 去る4月25日に行われた、情報処理推進機構(IPA)オープンソースソフトウェア・センター(OSSセンター)による「自治体におけるオープンソースソフトウェア(OSS)活用に向けての導入実証連絡会議」では、実証実験に参加した自治体からの報告が行われた。

 2006年の実証実験に参加したのは山形県、栃木県二宮町、千葉県市川市、大分県の4団体。今回はこのうち山形県と栃木県二宮町の取り組みを紹介する。

山形県はOSSでインフラ整備に着手

 山形県が取り組んだのは「文書管理システム」だ。どちらかといえばシステム全体のインフラに近い部分であり、また業務の上ではクリティカルな部分ともいえる。

 山形県情報企画課の伊藤丈志氏によれば、同県では全体最適化されたシステムフレームワークを2005年に体系化しており、そのインフラ部分には標準技術を採用してサービスオリエンテッドアーキテクチャ(SOA)を構築することがうたわれた。また、ベンダー非依存も大きなテーマである。

 同県では2001年に職員1人に1台のPCを導入。そのため、昨年あたりから更新の時期にかかりつつある。2007年にはクライアントOSをWindows XPに統一する予定だが、そこへWindows Vistaが登場した。6000台にものぼるPCを同時にではないにせよ、すべてVistaに移行しなければならないのか。もっと経済的な方法はないのか。これが今回の実験に参加した直接の理由であるという。

 この実験に際して同県が掲げたスローガンは「使われる文書システム」であり、業務ごとに最も使いやすいものとなるよう、サービスの粒度に重点を置いた。

 構築を担当したSRA東北の阿部嘉男氏は、「まずデータに着目し、管理する文書およびその管理情報とユーザー情報を別のデータベースに持つこととした。また文書の登録、更新、検索を別のサービスにすると相互のサービス同士が依存しあう関係になってしまい、再利用性が落ちるため、これらを一括したひとつのサービスとした。再利用性という点では機能をできる限り単純化することも必要だった」と述べている。

 データはPDFで持ち、ウェブ上で操作できるようにした。これまで紙で処理してきた業務を考慮し、「紙の感覚」で扱えるようにするためであるという。

 今回の文書管理システムが持つ機能は文書の起案(登録)と訂正、それに対する承認と棄却、全文検索、ユーザー別のアクセス制御である。「使われるシステム」を目指すだけあって、その画面はきわめてシンプルだ。左上に検索条件(文書番号、登録日、承認の有無など)を入力、右上にキーワードを入力すると、下にテーブルの形で該当する文書が並ぶ。これに対して承認や棄却などを決定していくのである。

 また、「定期処理」というサービスも盛り込んだ。これはユーザーが決裁すべき文書の決裁期日が迫っているとき、あるいは過ぎてしまったときに、ユーザー情報を照合してメールで知らせてくれるものである。

 このような実験の結果、今回のようなシンプルなシステムであれば十分に利用可能ではないかとの結論に達したようだ。情報共有度、決裁スピードの向上などが高く評価されたという。また情報企画部関連に限れば紙資源とその保管スペースの削減も可能だ。

 ただし問題がなかったわけではない。今回の管理システムでは最終決裁権限をもつ職員が中間決裁権限の職員の頭越しに決裁してしまうということがあった。県庁の業務では起案者と中間決裁者が推敲を重ねて文書を作成していくため、不都合だという。また文書データベースとユーザー情報を別に持ったため、業務によってはユーザー情報を何度も照合しなければならず、それがボトルネックになったという。

 しかし全体としての評価は高かった。現在のデスクトップ環境ではスペック要求の高いOSの利用は難しく、Linuxの利用による大幅なコスト削減が可能という結論であった。山形県ではさらにサービスの粒度を最適化しつつ、2007年度の実証実験にも参加する予定である。

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