攻撃の兆候をすばやく把握--IPAが異分野システム間連携の実証実験

鈴木恭子

2017-02-08 07:30

 独立行政法人情報処理推進機構 ソフトウエア高信頼化センター(IPA/SEC)は2月8日、産業ロボット分野とスマートエネルギー分野を連携する「異分野間連携に関する実証実験」を開始した。電力システムと生産稼働システムから収集したデータを相関分析し、生産稼働システムの故障予兆や異常監視に役立てる。

 今回の実証実験は、工場の責任者が遠隔から工場の稼働を監視/操作する場面を想定したもの。製造ラインの機器と工場内の照明/空調などを、工場監視システムで一元的に制御する。

異分野間連携実装実験概要(出典:IPA/SEC)
異分野間連携実装実験概要(出典:IPA/SEC)

 具体的な実験内容はこうだ。工作機器や六軸ロボットといった、製造ラインにある個々の機器に電力センサを取り付け、正常時の生産稼働データと電力消費データを取得する。その上で、製造ラインを一定時間稼働させ、個々の機器の電力消費データを収集する。

 同データが正常稼働時の電力消費よりも高い場合には、機器が摩耗したり正常に稼働していなかったりする可能性がある。生産稼働データと電力消費データを相関分析することで、故障予兆を早期に検知できるというわけだ。

 同実証実験を担当するIPA/SEC研究員の宮原真次氏は「工作機器やロボットにセンサを組み込んだり工場全体をスマート化したりするには莫大なコストがかり、中堅・小企業にとっては現実的ではない。今後は、工作機器のグローバル化が進み、品質が確定していない、安価な工作機器を導入する企業の増加が予想される。安定性が担保されていない機器が故障すれば、連携するシステムにも悪影響をおよぼす」と説明する。

実証実験を担当するIPA/SEC研究員の宮原真次氏
実証実験を担当するIPA/SEC研究員の宮原真次氏

 宮原氏によると、中堅・小企業が導入している工場内のエネルギー監視システムは、「既定以上の電力消費にならないよう制御する」ことが主な用途であり、個々の産業機器/ロボットの電力消費まで管理していない。一方、生産ラインの監視制御システムは、「機器が正常に稼働する」ことを制御するもので、消費電力の変動は監視の対象外であることが多いという。

 また、宮原氏は、「生産ラインにある機器の稼働状況を消費電力データを軸に分析できれば、製造機器を狙ったサイバー攻撃対策にも役立てられる可能性がある」と指摘する。

 製造機器のプログラムが外部から攻撃された場合、稼働状況に変化はなくても電力消費データは変動する。「その兆候を早期に発見できれば、将来的には『どの機種の』『どの部分に脆弱性があり』『どのように攻撃が試みられたか』まで把握することができる」(宮原氏)

 実証実験には、工場用情報システム用の接続仕様「ORiN」と、スマートハウス用通信プロトコル「ECHONET Lite」を利用する。なお、実証実験にはIPA/SECのほか、ORiN推進母体である「ORiN協議会」、ECHONET Liteの推進母体である「エコーネットコンソーシアム」、ECHONET Lite仕様の実装ノウハウを有する神奈川工科大学も参加する。

 宮原氏は、「あらゆるモノがつながるIoT(Internet of Things)のメリットは、異分野間でのサービス連携やデータ連携だ。しかし、開発/設計当初は想定していなかったモノどうしが接続されれば、安全・安心を脅かす重大な事故の発生が懸念される。今回の実証実験は、中堅・小規模製造企業の『低コストでスマート工場化したい』というニーズを満たす一助となる」と語っている。

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