SAP、クラウド志向のERP「S/4HANA」のメリットを再強調

國谷武史 (編集部)

2018-12-18 17:49

 SAPジャパンが最新版のERP(統合基幹業務システム)「SAP S/4HANA」の最新動向を報道機関向けに説明し、10月時点で導入決定数が9500社を超え、4500の導入プロジェクトが進行中だと発表した。説明会では、特にクラウド環境とインメモリ型データベース「HANA」によるS/4HANAの活用が、企業のビジネスに俊敏性とデジタルのプロセスをもたらすと改めて強調された。

 2015年にリリースされたS/4HANAでは、当初からHANAの高速データ処理能力が大きな技術的特徴として打ち出され、従来通りオンプレミスでも利用できるが、SAPは現在で言う“クラウドファースト”を取り入れた次世代ERPをコンセプトに掲げてきた。

2018年10月時点における「SAP S/4HANA」の導入関連状況
2018年10月時点における「SAP S/4HANA」の導入関連状況

 同社によれば、S/4HANAを本格稼働させた顧客が2200社を超え、最初の1000社突破までに要した期間は2年7カ月だが、1000社から2000社突破までは10カ月と、その加速ぶりも強調する。現在は、25業界向けのソリューション、38カ国語対応、160カ国で利用可能といったグローバル性も大きな強みになっているとした。

 バイスプレジデント S/4HANA Cloud事業本部長の関原弘隆氏は、クラウド環境で稼働するS/4HANAについて「作り込みではなく標準化」とそのコンセプトを説明した。旧来のERPは、会計や販売、人材、生産の管理といった用途別パッケージと無数のカスタマイズのアドオンを組み合わせるスタイルだったが、クラウドを志向するS/4HANAは、アドオンを減らしてSaaSとして提供される標準機能パッケージ群を組み合わせる。“デジタル変革”が叫ばれる企業のビジネスでは、システム間でデータを円滑に共有・利用していくことが必要であり、旧来のスタイルではシステムのサイロ化やアドオンがそのボトルネックになるというのが同社の観点となっている。

2018年11月リリースにおいて追加、強化された機能
2018年11月リリースにおいて追加、強化された機能

 バイスプレジデント ソリューション統括本部長の森川衡氏は、そうした観点のコンセプトを「インテリジェントエンタープライズ」と表現。データを機械学習で分析しながら、ビジネス拡大につながる知見や予測などの手がかりを得て、実業務に適用させつつ、その結果を加味して再びデータ分析へというサイクルを回していくものとした。同氏は、そのコンセプトに基づくERPの使い方をユーザーが実践していく支援策として、デザインシンキング手法のワークショップなども多数実施していると述べた。

 SAPユーザーの一部は、2025年にサポートが終了するERP 6.0など「SAP Business Suite 7」の製品群をどうするかという課題を抱え、その決断期限が迫りつつある。もともとサポート終了は2015年に予定され、SAPはユーザーの移行見通しが厳しいとして、2011年にサポート期限を2020年に延長、さらに2014年にも2025年へと再延長した経緯があり、2025年以降に“再々延長”される可能性は限りなく低いと見られる。

 こうしたERPの状況にあるSIerの幹部は、「基盤を仮想化して“塩漬け”で使い続けるのも、クラウドベースに移行するのも、あるいはベストオブブリードで他ベンダーに乗り換えるのも顧客次第で、われわれの立場ではそれに応じるのが基本だが、どれを選択するのか、より戦略的な検討をしてほしいと感じる顧客はそれなりにいる」とも語る。

SAPジャパンがERP活用例に挙げた部品製造業の営業プロセスの変革。製品活用と業務プロセスの見直しで実現していけるとする
SAPジャパンがERP活用例に挙げた部品製造業の営業プロセスの変革。製品活用と業務プロセスの見直しで実現していけるとする

 SAPを含む主要なERPベンダーは、製品としてのERPが既にデータ中心の新しい使い方を実現し、そのためのクラウド志向の仕組みにしていると説明する。極端に言えば、後はユーザーの選択次第といった感があり、ベンダー側の説明には販売促進を目指したマーケティング要素も含まれるだろうが、ERP導入に多少なりとも時間がかかるだけに、ユーザーに残された時間が潤沢というわけでもない。最新ERPのテクノロジも踏まえて自社の戦略に沿う導入選択の検討が急がれそうだ。

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