こんにちは。日本ヒューレット・パッカードのオープンソース・Linuxテクノロジーエバンジェリストの古賀政純です。今回から複数回に分けて、レガシーシステムから最新のコンテナー基盤へ移行し、デジタルトランスフォーメーション(DX)を実践した企業や研究所の事例をもとに、コンテナー基盤がもたらすビジネス変革について紹介します。
ITの近代化、現代化って何?
多くの企業や研究機関において「ITモダナイゼーション」が重要視されています。モダナイゼーションとは、日本語で「近代化」あるいは「現代化」と訳されますが、一体何を「近代化、現代化」するのでしょうか。単語から真っ先に思いつくのは、「古いIT機器とソフトウェアを捨てて、新しい機器と最新のソフトウェアを導入すること」に思えるかもしれません。しかし、それは単に新しいハードウェアとソフトウェアを入れただけです。
新品のブレード型サーバーを調達しただけでは、本当の意味での「ITの近代化、現代化」とは言えません。また、既に高度なITシステムを持っていたとしても、そのITによってビジネス成長が見込めないのであれば、今までとは全く異なる斬新なITを駆使した近代化、現代化も多面的に検討しなければなりません。
ITモダナイゼーションの具体的な手法としては、現行システムのIT資産をそのまま利用して新システムに移行する、あるいは現行システム資産は廃棄するものの、現行システムの仕様をそのまま新システムに実装し直す、さらには現行システムのソフトウェアを他のプログラミング言語で実装し直すといった「レガシーマイグレーション」が代表的です。しかし、単なるソフトウェアのバージョンアップやプログラミング言語の変更だけでは、本当のITによる近代化や現代化はなかなか進みません。
企業全体として見た場合、硬直化していた従来の業務の在り方や企業文化を最先端のITを駆使して改革し、ビジネスが成長してこそ本当の「ITによる近代化、現代化」といえるでしょう。
図1.ITモダナイゼーションって何?
企業を変えるデジタルトランスフォーメーション
一般に、ITモダナイゼーションは旧世代のIT基盤全体を最新の機器やソフトウェアに置き換えるレガシーマイグレーションとして語られることが少なくありません。しかし、単なる新しいハードウェアやソフトウェアを調達するというだけでなく、近年は、企業全体の方向性に関わるデジタルトランスフォーメーションが重要視されています。デジタルトランスフォーメーションは、従来の紙の利用や電話、メールでの情報伝達、面倒な利用申請といった人間の手作業をPCでデジタル化するという意味ではありません。
デジタルトランスフォーメーションとは「あらゆるモノ、人をITでつなげることで新しい価値を生み出し、私たちの暮らしをより良くしていくこと」を意味します。既存のビジネスから脱却し、新しいデジタル技術を活用することによって、新たな価値を生み出していくことが求められています。
例えば、データセンターやクラウド基盤におけるIT資源のユーザーへの自動配備技術、アプリケーションの開発効率やサービス利用効率を向上させる技術、ビッグデータ、人工知能(AI)、機械学習、深層学習による知的情報処理技術などの活用です。これらの最先端技術を活用することで、業務そのものを改革し、新しい知見を獲得することで、最終的には企業や組織体の文化そのものを変革し、大きな成長を果たすことがデジタルトランスフォーメーションといえます。
デジタルトランスフォーメーションは、業種や業務内容によってその目的や様態もさまざまですが、以下のような業務改革が例として挙げられます。
- 顧客の要件によってIT部門が手動で変更していた業務システムをセルフサービス化し、IT部門の作業負荷を劇的に低減し、IT部門が経営戦略策定に深く従事できるようにする
- 開発部門、IT部門の縦割り組織をDevOps型組織に変更し、ウォーターフォール型で開発したレガシーシステムをアジャイル開発型のハイブリッドクラウド型システムに切り替え、業務の敏捷性を高める
- 現金や電子マネーによる決済基盤を手数料が安価なブロックチェーン基盤に置き換え、金融サービスの差別化を図る
- 人間の目視で行っていた監視カメラに映る不審者の検出を人工知能に置き換え、ビッグデータで得られた知見により、今後発生するであろう未来の犯罪の予防に高い精度で生かす
- 人間による窓口業務の多くをプライベートクラウドで稼働するモバイルバンキングに更改することで顧客の利便性向上とTCO(総所有コスト)削減を実現。そして窓口業務では、指紋による生体認証を採用して顧客の資産保護を強化する