日本マイクロソフトは6月13日、メディア向けの説明会を開き、米Microsoft VP for Worldwide EducationのAnthony Salcito氏らが、グローバル教育におけるデジタル活用や日本の文教市場における進展状況などを紹介した。
日本マイクロソフトの調査によれば、大手の教育機関におけるクラウド採用率は前年度比で21%増加した。全教育機関における新規のWindowsデバイス採用や稼働数も同2%増だった。背景には、2020年に向けた小学校でのプログラミング教育の必修化や、2018年6月に政府が策定した「クラウド・バイ・デフォルト(政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針)」といった多様な要素が影響している。
これらについて同社は、2017年10月の「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」がベースになっているものの、「(データガバナンスを醸成するためには)金融業界の『FISC安全対策基準』と同じく、1つずつクラウドで実現できることを書き換え、加えるプロセスが発生した。教育分野は始まった段階」(日本マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター事業本部 文教営業統括本部長の中井陽子氏)と状況を分析。政府のデジタル教育系ガイドラインをフォローアップしていくと明示した。
日本マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター事業本部 文教営業統括本部長の中井陽子氏
政府がデジタルを活用した教育改革に取り組んできたのは“周知の事実”で、文部科学省と経済産業省、総務省が連携したICTデバイスの整備や、各地の教育委員会に対するICT整備の予算確保などが進められてきたが、日本マイクロソフトはパブリックセクター事業の一環として文教方面にも注力してきた。説明会で同社は、2019年度における初等中等教育分野に対する成果として、西条市教育委員会、北海道清水高等学校、多久市教育委員会戸田市教育委員会、希望ヶ丘高校、豊島岡女子学院高等学校と多数の新規事例を並べた。特に愛媛県西条市は、教職員向けテレワークの導入にMicrosoft Azureを利用したVDI(仮想デスクトップ基盤)を構築することで、柔軟な働き方を実現し、同市は2019年2月に日本テレワーク協会の「第19回テレワーク推進賞」を受賞している。
一方、MicrosoftのSalcito氏は、グローバルでの取り組みとして13年間の教育期間を対象とした「K12 Education Transformation Framework」や、大学生を対象とする「Microsoft Higher Education Transformation Framework」を用意してきたと説明。この枠組みについて「学校のリーダーが仕事をする上で1つの枠組みとなる。教室内での学びや運用、リソース、データを効率良く提供する枠組みだ。Microsoft以外のテクノロジーを使っても構わない。紙ベースを含めて包括的に提供する」(Salcito氏)という。
この枠組みを日本の文教市場に当てはめると、「地域や首長とともに考える枠組み。現在、和歌山県知事から教育を改善したいという提案をいただき、(日本マイクロソフトも)教育変革を支援している。変えるためには地域の目標として教育の重要性を認識するプロセスが必要」(中井氏)と、デジタル教育改革を実現するには、トップダウンで取り組む姿勢が欠かせないと話す。
Microsoft VP for Worldwide EducationのAnthony Salcito氏
また、高等教育に関するMicrosoftソリューションの採用事例としては、東海大学や近畿大学、東京工業大学、京都文教大学・京都文教短期大学、森ノ宮医療大学、明治大学のケースを披露した。
東海大学は、ソーラーカープロジェクトを長年にわたって推進してきたが、空力特性を解析・評価するハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)環境を用意できないため、Microsoft Azureを利用して40日間で200ケースの解析を実施した。その結果、車輪周辺および車体の底で発生した空気の渦への対応を可能にしたとのこと。近畿大学 水産研究所では、養殖真鯛の稚魚の選別にMicrosoft AzureのIoT機能や画像認識、機械学習を用いてスタッフの負担軽減と効率アップに寄与した。日本マイクロソフトの中井氏は、「第1次産業の品質維持と継続にAI技術が採用されるのは励みになる」と述べている。
Microsoftは、マインドセットの変革がデジタル教育改革を実現する最短の近道と強調する。だが、働き方改革の文脈では、教師の負担を無視できない。Salcito氏は「データによる洞察を使ってコンテンツを提供する。ツールを使うことで教育者がエキサイティングに感じられるのがわれわれの役割。(デジタル格差問題に対して)デジタルが生徒の価値につながるのであれば、教師も受け入れてくれる」との見解を示した。中井氏も「地域で教育を考えれば、教師の働き方改革に至る。圧迫原因として校内の校務なのか、紙処理なのか(課題を認識し)、改善するためにはどうするのか、といったプロセスが重要」と改善策の必要性を指摘した。
Salcito氏は、日本の文教市場について「デジタル変革とデジタルシフトというチャンスが目の前にある。グローバルなマインドセットで、ベストプラクティスを活用してほしい。Microsoftが成功する、しないの話ではなく、学生の成功が目的」と述べ、中井氏も「クラウドを活用した働き方改革や教え方改革、研究機関の支援、小中高大の学びが変わることを目指した『Future Ready Skills』を通じて、教育分野における人材育成に寄与したい」との展望を語った。