中国ではオンラインでの教育サービスが熱い。熱いといっても消費者まではまだ響いていない。スタートアップ界隈では、シェアサイクルから広まったシェアサービスや無人店舗などのニューリテールブームに続いて「エデュテック」、つまりハイテク教育企業が融資を受けるニュースが日々報じられ、投資ブームに沸いている。エデュテック企業では洋葱数学、考虫、作業盒子、火花思維、VIPKID、海風教育、作業幇、VIP陪練、猿輔導などが有名どころだ。
ところが早くも「淘汰の時代が始まった」と報じるメディアもある。
中国政府国家教育部の「全国教育事業発展統計公報」のデータによれば、今後5~10年の間に、中国教育市場は5000億元規模になるとしている。この中でも「K12」と呼ばれる、幼稚園児から高校生までの市場が伸びると予想している。融資を受けたエデュテック企業では、英語や日本語などの語学系を扱う企業や習い事を扱う企業のほか、STEM教育の企業もある。
2017年に一部の小中学校でプログラミングの授業が加わり、2018年には高校でも必修の授業となった背景から、プログラミングに関するエデュテック企業が立ち上がっている。中国メディアの報道によれば、中国には150社以上のプログラミング教育のエデュテック企業ができた。2018年にはこのうち30社以上が融資を受け、その融資総額は20億元(約320億円)を超える。とはいえ、突然多くの企業が立ち上がったが故に、2019年には淘汰が始まるとみられている。
3月に開催された中国の政策を決定する「両会(全人代+中国人民政治協商会議)」においても、インターネットと教育の融合について論議され、政府が後押ししようとしている。人工知能(AI)やビッグデータなどを用いて指導効率を高め、教育水準を上げるとともに、Eラーニング産業が発展できるように政策などで環境を整える必要があると意見が出た。
中国で有力なオンライン学習プラットフォームを提供する「一起」を立ち上げた劉氏は、「ビッグデータにより、各学生の弱点を分析・発見できるようになり、教育のクオリティが上がる」と語る。一起が提供するプラットフォームは、公立学校でも採用されている。江蘇省錫山高級中学校では、高校1年生を対象にスマート教育ソフトを活用し、教師が各学生の学力に合わせた問題を作成した。投資ブームの中で登場したエデュテック企業の中には、公立校や私立校の教育環境を改善しようと取り組んでいるところもあり、一部の先進的な学校で取り入れられている。
一部の先行する学校では、学校単位で学生のデータを活用し、各学生に最適な教材や問題を提供している。これを中国全土に広げたいと関係各所も考えている。やがて中国全土の膨大な学生の学習データを収集するだろうが、その収集に当たってのセキュリティや制度面について議論されているようだ。
エデュテックは指導だけに使われているわけではない。中徳教育によれば、作文の点数付けに自然言語系AIが活用されていて、単語の豊富さ、文章の簡潔さ、一貫性、表現、テーマなどで点数を付けられる。ハルビン工業大学の秦教授によれば、「作文の点数付けAIは安徽省合肥の中学受験で活用されていて、人間が評価するよりも精細な評価が可能だ。内容の盗用などもチェックできる」という。
特に作文や論文に関してはコピーが多いといわれているが、AIの導入が進めば、とりあえず他人の文章をコピーして提出する悪習がなくなっていくかもしれない。
- 山谷剛史(やまや・たけし)
- フリーランスライター
- 2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。