山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

個人情報保護の意識高まる中国--是非が問われる自動コンテンツ認識技術

山谷剛史

2019-03-22 07:00

 中国フードデリバリ大手の「美団」と「eleme」の自動コンテンツ認識技術に対して、盗聴ではないかいう疑惑が上がっている。

 例を出そう。2018年11月には上海のある消費者がCoCoブランドのミルクティーが飲みたくてelemeのアプリを起動させたところ、過去に頼んだことも検索したこともないのに、CoCoのミルクティーがお勧め商品としてトップに出てきた。

 同月、北京のある消費者が「うなぎを食べたい」と友人と話していたところ、1分後にelemeからうなぎのフードデリバリが勧められた。最後に注文したのが23日前だった。そこで翌日、怪しく思ったその人は「ピザを食べたい」とアプリを起動していない状態で話すと、elemeのお勧めの店舗に半月前に注文したピザ屋が登場した。

 つまり、消費者からすればさまざまな行動がスマートフォン経由で盗聴されているのではないか、ネットサービスはユーザーデータをひっそりと集めているのではないかという疑惑だ。

 この疑惑について検証すべく、中国メディアのIT時報は2018年11月から2019年3月まで、さまざまなシーンでAndroid版、iOS版、PC向けサイトのアプリを活用し、検証している。その結果、IT時報の記者の環境においても6、7割の確率で同様の状況は発生した。「日本食を食べよう」と記者同士で話し、2分後にelemeを起動するとトップページで日本料理屋が勧められた。elemeの事例ばかりを描いたが、2019年に入って美団でもそうした傾向が強まっている。

 記者によれば、美団とelemeでは、マイクによる録音権限を消しても同様の症状は残っているが、微信(WeChat)や大手ECの天猫のアプリでマイクによる録音権限を消したところ、同様の症状は発生しなくなったとしている。

 美団やelemeは「日常的な盗聴や音声分析は行われていない」「プライバシーを厳格に保護している(eleme)」「マイクを使うのは音声入力時だけ。ユーザーニーズがないとお勧めの店は表示しない(美団)」とコメントしている。中国では「網絡安全法(ネットワークセキュリティ法)」に加えて、2018年末からアプリのプライバシーポリシーの強化が厳しくなったため、プライバシーの保護にはナーバスになっている。(詳しくは関連記事の「中国の個人情報保護の動きと行き過ぎへの不安」を参照してほしい)

 こうした日常の音声を拾って分析する「自動コンテンツ認識技術」は、米国でも日本でも商用化されている。例えば、テレビの音声が流れていれば、テレビの音声からユーザーはどんな関心があるか、というのを音声から分析するといったことが可能となる技術だ。中国ではプライバシー保護強化が話題になる中で、そうした自動コンテンツ認識技術も制限されていくかもしれない。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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