山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

AIはプログラマーの仕事を奪うのか--中国でも議論に

山谷剛史

2024-06-26 07:00

 AIによるプログラマーの代替が可能かどうかは、中国でも頻繁に議論されるテーマである。中国のインターネット業界は一部で先行きに不透明感が漂っているものの、過去20年間でネット企業の隆盛とともに、プログラマーは高収入を得られる魅力的な職業として位置付けられてきた。しかし、いつかAIがプログラマーの仕事を奪うのではないかという懸念がある中、米国の中華系企業であるCognitionから自律型AIソフトウェアエンジニア「Devin」が発表された。

 また、中国では百度(バイドゥ)が「Comate」、阿里巴巴(アリババ)が「通義霊碼」(Tongyi Lingma)、商湯科技(センスタイム)が「代碼小浣熊」(Daima Xiaohuanxiong)といったAIコードアシスタントを開発している。いよいよプログラマーの仕事がAIに置き換わる日がやってくるのかという昨今、中国のメディアでも多くの記事が取り上げられている。今回はこれをまとめていきたい。

 アリババクラウドでは、通義霊碼に“AI001”という従業員番号を割り当て、4月から全面的な活用を推進している。同社のプログラマーが社内で利用する「JetBrains IDE」や「Visual Studio Code」などの開発ツールに統合され、コードの作成や読み取り、バグの特定、最適化などを支援する。

 通義霊碼は、Java、Python、Go、JavaScript、TypeScript、C/C++、C#など200以上のプログラミング言語に対応するという。例えば、APIの開発/テストでは、手動のテスト作成にかかる時間を数十分から数秒に短縮し、プログラマーのテストコード作成にかかる作業を70%削減する。同社の関係者は、「将来的にはコードの20%を通義霊碼が記述することになるが、研究開発の中核は引き続きプログラマーが担うことになり、システム設計やビジネス開発により集中できるようになるだろう」と語る。

 センスタイムは、クラウドで利用する代碼小浣熊に加えて、スタンドアロンで動作する軽量版を搭載した統合型マシンを発表。これは、プログラマーがコードをより効率的に作成、理解、管理するのに便利だが、なによりもクラウドサービスを利用したくない企業にとって大きなメリットがある。大規模言語モデル(LLM)によるコード生成能力を評価するベンチマーク「HumanEval」では、「GPT-4」の74.4%を上回る78.1%という成績を収めている。

 同社によれば、ソフトウェアの設計、開発、テスト、展開、保守というライフサイクル全体において、特に反復作業の多い開発とテストの段階でAIコードアシスタントが有用だとしている。代碼小浣熊を活用することで、ソフトウェアの開発サイクルを短縮し、プログラマーのパフォーマンスを50%以上向上させることができるとしている。また、需要分析から製品開発まで100人日はかかるとされるプロセスを、代碼小浣熊を用いることで30%短縮し、70人日にまで削減可能だという。

 バイドゥは3月に、自社の内部コードの4分の1がComateによって作成されていることを明らかにした。同技術は、上海三菱エレベーターなど1万社以上で採用されているとのこと。最高経営責任者(CEO)の李彦宏氏は、2024年の重点事項の一つとして「誰もがプログラマーになる能力を身につけること」を強調し、「将来的に残るプログラミング言語は英語と中国語(による指示)の2つだけになるだろう」と語っている。

 こうした製品がプログラマーを完全に代替することはあり得るのだろうか。通義霊碼のプロジェクトマネージャーは、「人こそが肝心でAIは補助」だとコメントしている。創造的な設計やアイデアの創出は、引き続き人が大きな役割を果たすと考えられる。例えば、フレームワークの初期設計は人が行うが、いったん設計が完了してしまえば、後はAIに単純なタスクを自動処理させることができるだろう。また、特に製品レベルのソフトウェア開発には、広範囲にわたる複雑な思考が必要であり、これには人の頭脳が必要になると指摘する。

 AIコードアシスタントの導入により、プログラマーはアルゴリズムの設計やアーキテクチャーの選定、ユーザー体験の最適化など、より創造的で戦略的な作業に専念する時間が増えることが期待される。AIの助けを借りてプログラミング作業を自動化、最適化することで、ソフトウェアの開発サイクルを迅速化し、業界の進歩を促進するだろう。しかし、基本的なコーディング作業が自動化されるにつれて、反復的な作業に従事する若手のプログラマーや開発者が職を失うリスクも高まるはずだ。

 中国のインターネット業界では長年にわたり、即戦力となる人材が求められてきた。この需要に応えるために教育機関があり、そこでは多くの若者がプログラミングを学び、卒業後には大小さまざまな企業で活躍している。しかし、もしAIがそうした新入社員のポジションを奪うとなれば、将来的には人材や雇用の問題が生じる可能性がある。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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