山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

中国の偽物・不正ビジネスに切り込む「暴露系」動画が注目を集める

山谷剛史

2023-11-21 07:00

 日常にはびこる世の中の不正を見つけ、それを動画で告発する配信者は中国にもいる。最近では、データを改ざんできるように細工が施されたデジタルスケール(中国語で「鬼秤」と呼ばれている)の暴露動画が注目を集めている。

 デジタルスケールは物の重さなどを計測し、その数値をデジタル表示するはかりである。商品の単価をあらかじめ設定しておくことで、重量と金額を同時に表示する機能などもある。鬼秤は、操作側の設定によって実際よりも水増しした重さを出せるようになっており、その掛け率を何段階にも調整ができる。

 これまでも、市場に食品を買いに行けば不正確な計量で多めに払うことは日常的にあり、市民も「少しくらいなら」と諦めていたところもあった。それが、計量器も時代とともにアナログからデジタルに変わり、消費者保護の観点から検査員によるチェックが行われ、合格した製品には検定付きのシールが貼られるようになった。

 しかし、そこは中国である。「上に政策あれば下に対策あり」という言葉があるように、鬼秤は正常モードと不正モードをボタン操作で切り替えられるようになっており、しかもそうした操作はパスワードで保護されている。また、遠隔制御機能を搭載した製品もあり、リモコン操作ではかりの数値やモードを変更できる。

 多くの人は普段の買い物で食材の計量が正しいかどうかを細かく気にすることはなく、仮に怪しいと思われてもパスワードで保護された状態では検査することも困難という。それでも鬼秤の利用者が多いのか、中国各地で検挙されるケースが増えている。ちなみに、デジタルスケールを“鬼秤化”するには、専用チップに取り換えるか、既存チップを書き換えるという手段があるという。

 登録数が2000万人を超えるライブ動画配信者の「B太」氏は、タクシーの偽造メーターをはじめとするさまざまな不正に切り込んでいる。そんな同氏が大連に旅行した際に、市場で鬼秤に遭遇した。B太氏は大連の海鮮市場で毛ガニを買って、それを市場内の別の海鮮料理店で調理してもらい、それぞれの店舗で重さを測ってもらったところ、前者は2.7Kg、後者は1.9Kgだった。つまり、前者の店のデジタルスケールが鬼秤化されていたわけだ。またほかの店でハマグリを購入すると、同じように数値がおかしかった。

 そこでB太氏は、動画を撮影しながら鬼秤の疑いがあるデジタルスケールをチェックしようとすると、店側から強い抵抗に遭う。しばらくして監督機関の担当者が現場に到着した後、パスワードの突破を試みるもその場では解除できなかった。監督機関が検査機関にデジタルスケールを持ち込み、後日それが鬼秤だとようやく判明した。その一部始終をまとめた動画や報道は話題を集め、それなりに拡散されたが、その代償として大連を旅行中の同氏は現地で注目の身となってしまった。

 さて、現在も不正や偽物がまん延する中国では、B太氏だけでなく、多くの動画配信者がこの種のネタを題材にして、チャンネルの登録者を増やし、アクセス数を稼いでいる。実際、ある商品の偽物を買ってみた、食べてみた、使ってみたという動画は多い。動画配信者による悪徳ビジネスの暴露動画が規制当局を動かし、行政による処罰が下るというのはスカッとするものだろう。動画配信者は悪を暴き、ファンとなった視聴者は投げ銭などで支援する。B太氏のフォロワーは2000万人もいることから、動画配信で相当な収入になるのは想像できよう。

 偽物や不正が暴露されることでメンツを失うのはビジネスをしていた当人と、本来それを裁くべき市場責任者や監督部門だ。題材次第では政府ににらまれることもあるかもしれないが、そこは中国で生まれ育ったネットユーザーなのでバランス感覚はあるだろう。

 今のところ中国で不正ビジネスの暴露に規制はないが、かつて国内のSNSで表現の規制が入ったように、何かしらの動きがあるかもしれない。いつまで不正暴露系の動画が続けられるのか、気になるところではある。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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