インターネットの資源であるドメイン名やIPアドレス、プロトコルなどを管理する非営利公益法人のInternet Corporation for Assigned Names and Numbers(ICANN)の公開会議「ICANN64」が3月9〜14日にかけて神戸で開催された。日本での開催は2000年の横浜から19年ぶり2回目。日本語訳サポートや関連イベントの開催もあり、国内から200人以上が参加し、初めて参加する関係者も多かったという。
ICANNは1998年の設立以来、グローバルなインターネットコミュニティーによる方針策定をマルチステークホルダーアプローチで実施してきた。インターネットを統治、管理するガバナンスに関わる人たちも多く参加しており、大きく以下のような5つを課題として取り上げている。
- ドメイン名文字列(ラベル)に関して
- 「WHOIS」と呼ばれる登録ディレクトリサービス(RDS)関連
- 技術、セキュリティと安定性
- 政府・IGO(国際政府組織)とのエンゲージメント
- IGF(グローバル、地域、国レベル)の支援、能力開発支援
これらについてはさらに細かいテーマごとにグループを設けるなどして、オンラインや電話会議で議論が行われているが、理事や主要なメンバーが直接意見を交わし、寄せられたコメントをもとに議論し、まとめる場として公開会議が年3回、世界各地で開催されている。議題はその時々で変わるが、2021年から5年間の戦略計画の策定といった全体に関するものもある。
会議全体の大きな課題や決議目標は初日に理事らから紹介される
決議される課題はドメイン名のサーバシステムに関するものなど技術的なものから、欧州の一般データ保護規則(GDPR)やドメイン登録に関するものまで幅広く、全体でも300以上のセッションがあり、そのうち296は公開セッションとして、議事録や資料はオンラインで公開されている。14日の最終日には会議期間で交わされた議論についての報告や意見をコメントするプログラムもあり、それによると全体の60%がユニバーサルアクセスに関するものだったという。
最終日には多くのメンバーが議論の報告や意見の提案、会場からの質問に答えるセッションが複数開催され、直接コメントする機会も用意されている
ユニバーサルアクセスとは、国籍や性別、年齢などあらゆる要因に関わらず、誰でも同じようにインターネットを利用でき、情報を得られるようにすること。世界中で新しく利用者が増えるのに応じて、さまざまな課題が生じている。例えば、インターネットのアクセスはアジアで大幅に増え、多くは英語以外の言語で利用されている。
ドメインは基本的にASCIIコードが使われているが、それ以外の言語や右から左への記述にも対応することで、文化交流や経済、ビジネスでも多くの人たちがチャンスを得られる。理事からは「技術的な対応は可能で、ブラウザやOSでもサポートするため、どのような活用方法があるかの情報共有も進めていきたい」とコメントがあった。
ドメインをメールアドレスを英語以外の言語やさまざまな入力方法に対応するよう意見が出されていた
ドメイン名は10年間で大きく増えており、認定や管理ルールについて次々に生じる新しい課題に対する議論が続いている。新しいところではUnicodeで定義された絵文字をドメイン登録できるようにするかといった話もある。他にも、Amazon.comは自社製品名に関連するドメイン名を多く取得しているが、それに加えて「.amazon」をはじめとする多数のドメインをICANNに申請しており、これらを認定するかどうかも議論されているが、現時点では結論は出されていない。
ドメインはこの10年で大幅に増え、登録や管理が複雑になっている
新しいサービスやテクノロジへの対応も話題に上っていた。一つはスマートスピーカに関するもので、ユーザーが音声でインターネットにアクセスする場合に正しいドメインにたどり着く方法や、ローカル言語への対応をどうするべきかという意見が出されていた。
音声での問い合わせに回答がない場合、技術的な問題なのか、それともプロテクトされているのか、場合によっては偏った情報にしかアクセスできないようコントロールされているのではないかといった懸念もある。ただし、これらはコンテンツに関するものでICANNで議題にするかどうかはその場で具体的なコメントはなかった。
他にもインターネット教育に関してもいろいろな意見が出されていた。ある調査によると若いデジタルネイティブ世代ほど、ドメイン名やIPアドレスの概念を分かっておらず、リテラシ不足でインターネット本来の価値を理解していないのではないかという意見もあった。いずれにしても、インターネット教育は不可欠で、「これからアクセスが増える地域もあり、どのような方法で行うかみんなで話し合っていきたい」というコメントが理事から寄せられていた。
会期中には若い世代がインターネットの普及や新しい提案をするプログラムもあり、多くがアジアからの参加者だった
世界人口のほぼ半分がアクセスするインターネットに対しては、国連が管轄するInternet Governance Forum(IGF)でも議論されている。主な話題はインターネットの信頼性や安全性の確保で、各国の政府からも意見が出される。基本はマルチステークホルダーで運営されているが、テロ活動やフェイクニュースの影響により規制も必要だとする声も出始め、このままでは国家が一方的に権力を持つことになりかねない。
そうした事態にならないよう働きかけることができる場がICANNであり、多くの人たちに開かれた場になっている。これからインターネットを普及させようと課題に直面している地域から参加している人たちが会議に参加し、積極的にコメントしているのが印象的だった。
理事に直接コメントするために多くの人たちがインターネットガバナンスに関して数多くの議論が交わされる
議論は英語で行われ、専門用語も多く、技術的に難しい話題も多数ある。実際、最後の締めくくりである「ICANN Board Meeting(理事会)」では19人の理事が参加し、12項目について決議が行われたが、日本語訳を聞いてもなかなか理解できない。そうした情報については今後、日本語で活動している組織から情報が提供されることを期待したい。そのためにはまずICANNの活動に少しでも関心を持ち、できれば再び、日本での公開会議の開催を誘致する活動を後押ししたいところだ。
ICANN65が開催されるモロッコのマラケシュから参加のサポート内容などが紹介された
(取材協力:日本ネットワークインフォメーションセンター)