本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、富士通の時田隆仁 代表取締役社長と、日本IBMの山口明夫 代表取締役社長の発言を紹介する。
「DX新会社は将来的に富士通グループ全社のリファレンスになる」
(富士通 時田隆仁 代表取締役社長)
富士通の時田隆仁 代表取締役社長
富士通が9月26日、経営方針説明会を開いた。時田氏の冒頭の発言はその会見の質疑応答で、デジタルトランスフォーメーション(DX)ビジネスをけん引するために設立する新会社の将来像を聞いた筆者の質問に答えたものである。
会見全体の内容については関連記事をご覧いただくとして、ここでは時田氏が最も強調していたDXビジネスの話に注目したい。
「富士通には世界でも有数の顧客基盤があり、社会から求められる価値をパートナーとともに共創することで課題解決に貢献できると確信している。そのために『富士通はIT企業からDX企業に変わる』と宣言した。環境や社会、ビジネスへの好循環をもたらすインパクトを生み出していきたい。富士通は伝統的なICT企業として、今まで当社の製品やサービスをお客さまにお届けしてきたが、これからはテクノロジーをベースとして、社会や個々のお客さまに最適な価値をお届けする会社になる。そんな思いでDX企業になると申し上げた」
時田氏は会見の冒頭で、富士通が目指す姿についてこう説明した。今回の会見で同氏が訴求したかった最大のポイントは、この発言に集約されている。
そして、DXビジネスにおけるアクションとして、これをけん引する新会社を2020年1月に設立することを明言した。その内容については図をご参照いただくとして、このDX新会社について筆者は会見の質疑応答で、「DXビジネスを会社組織として切り出すのはこのところトレンドになっているが、将来的に既存事業の本体との関係でどのような組織構造を考えているのか」と聞いてみた。
DX新会社の概要(出典:富士通の資料)
こう質問したのは、「切り出したDX組織が本体とかけ離れていってしまうケースも考えられることから、経営者は将来的に本体との統合を含めた組織構造のあり方を考えておくべきだ」との有識者の見解を聞いたことがあるからだ。そんな筆者の質問に対し、時田氏は次のように答えた。
「DXビジネスについて、いわゆる出島として切り出すか、本体の中で進めるべきか、社内でも相当議論した。その結果、私たちは完全に自立した会社として推進することに決めた。扱う製品やサービスも富士通のものを前提にせず、お客さまに最適な価値を提供することを第一義とする会社にしていく。本体はそれに刺激を受けて、改めて良い製品やサービスづくりに尽力するといった相乗効果も生まれるだろう」
そしてこの回答の最後に語ったのが、冒頭の発言である。この発言には時田氏の強い「覚悟」を感じた。筆者はこの動きが富士通にとって将来の存亡をかけた一大勝負になると見る。果たして奏功するか。注視しておきたい。