日本IBMとパナソニックは10月15日、半導体製造工程におけるOEE(総合設備効率)の向上と高品質な“ものづくり”を目的とする新規商品開発での協業を発表した。
協業の概要
今回の協業で両社は、半導体製造の後工程におけるプロセスコントロールの高精度化を目指す。パナソニックが2017年から提供するプラズマダイサー(プラズマを用いてウェハーを切り出す装置)やプラズマクリーナー(表面改質や端子洗浄などを行う装置類)などと、IBMが提供するプロセスコントロールシステムのMES(製造実行システム)を連携させる。
パナソニック コネクテッドソリューションズ社 上席副社長 プロセスオートメーション事業部長の青田広幸氏によると、従来のプラズマダイサーでは、ベテランのエンジニアが数百項目のパラメーターをもとに装置を動作させる設定(レシピ)を何度も調整し、最適なレシピを算出するまでに数週間を要していたという。プラズマクリーナーでは放電するプラズマが不安定になるなどの状態が発生することで製品の品質などに影響することが課題になっていた。
協業における意義
協業により、プラズマダイサーでは両社が開発するレシピ自動生成システムを用いることでレシピを算出するまでのリードタイムを数日程度に短縮できるという。これにより新製品の製造に要する時間を短縮し、量産時におけるレシピの補正も容易になるという。プラズマクリーナーでは、装置など生産設備の稼働データをプロセスコントロールシステムで蓄積、解析していくことにより、故障の発生を予測して事前に保守対応を行ったり、設備稼働を最適化させたりすることにつながるとしている。
日本IBM 専務執行役員 エンタープライズ事業本部 パナソニック エンタープライズ事業部長の武藤和博氏によれば、IBMはMESで50%以上の世界シェアを持つ。「ビッグデータの活用により製造現場に強いパナソニックと製造管理に強いIBMをつなぎ、半導体製造プロセスの最適化を実現できる」(同氏)と語った。
協業発表の記者会見には、日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏とパナソニック 代表取締役 専務執行役員 コネクテッドソリューションズ社長の樋口泰行氏も登壇した。両氏は協業の意義について、半導体製造の現場を担うパナソニックの機器(エッジデバイス)とIBMの製造実行管理におけるデータ分析技術を連携させることにより、半導体製品の品質の安定化やエンジニアリングコストの削減、設備稼働率の向上といった直接的な効果に加え、少子高齢化に伴うもの作りでの技術伝承といった社会的課題にも対応すると強調した。
今回の協業は製造現場領域におけるデータ活用が中核となる
会見で樋口氏は、「現場プロセスのイノベーションをビジョンに掲げており、データ活用や生産性の向上、予防保全や人のノウハウの蓄積などを通じて業務の現場に貢献し、日本の強みを世界に広げていく」とコメント。山口氏は、「双方の枠を超えた新しい取り組みを日本から世界に発信していく最初のステップ」と述べた。
今回の協業範囲における事業目標としては、2030年度に約250億円の売り上げを目指すが、両社では経験やノウハウをより広範な産業領域に拡大させていくとしている。
大阪で協業を発表した日本IBMの武藤氏、山口氏、パナソニックの樋口氏、青田氏(左から、写真提供:パナソニック)