北國銀行(金沢市)と日本ユニシス、日本マイクロソフトは11月21日、日本初となる銀行の勘定系システムをパブリッククラウド上に実装するプロジェクトを開始すると発表した。同システムはMicrosoft Azureを基盤としてユニシスのオープン勘定系システム「BankVision」を採用し、2021年の稼働を予定する。
北國銀行は、中期経営計画「コミュニケーション×コラボレーション×イノベーション2024」で次世代版の地域商業銀行を目指す姿に掲げる。自行システムの全面クラウド化を順次進めてきたが、フルバンキングシステムのパブリッククラウド採用は国内初の事例。同行とユニシスは、今回導入する「BankVision on Azure」と弊行して、Azureを用いたデータ活用プラットフォームの検討や、各種データを活用した地域エコシステムの実現も目指す。さらには、「Azure API Management」を用いて開発したオープンAPI公開基盤「Resonatex(レゾナテックス)」を活用し、異業種やFintech企業などへサービス提供する「BaaS(Bank As A Service)」の事業化の検討を進めることにしている。
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「BankVision」は、Windows ServiceとSQL Serviceを基盤としたオープン勘定系システムだが、ユニシスとマイクロソフトは、2018年3月から共同で勘定系システムのクラウド化を図るプロジェクトを進めてきた。その取り組みは2016年度にまでさかのぼり、BankVisionをAzure上で稼働させるための検証を重ねてきたという。
共同プロジェクトの開始後は、日本マイクロソフトが約200人体制で米国本社のAzureエンジニアリングチームとも連携しながら推進し、システムのクラウド移行を目指す北國銀行での採用に至った。BankVision自体も銀行の勘定系システムとして高水準のSLA(サービスレベル合意書)を求められるため、「当時のWindows ServerやSQL Serverに必要な機能をMicrosoftに組み込んでもらった」(日本ユニシス 取締役常務執行役員の葛谷幸司氏)という。
日本ユニシス 取締役常務執行役員の葛谷幸司氏
日本マイクロソフト 執行役員 常務 サービス事業本部長の内田聡氏は、北國銀行とBankVision on Azureの契約終結に至るまでには、「可用性や安全性、セキュリティなど多くの課題があり、費用対効果とSLAの観点からベストな選択に至るまで数年を要した」と語る。詳細は伏せられたが、サービスの可用性を担保するために、BankVision on AzureではAzureの東日本/西日本リージョンで冗長化され、Azure内でも複層的なサポートを行っているという。また日本マイクロソフトは、金融機関向けに、監査権や当局検査対応などのサポート、また、情報開示要求の個別対応や監査範囲の追加提言などを行う「金融機関向けコンプライアンスプログラム」も提供する。
日本マイクロソフト 執行役員 常務 サービス事業本部長の内田聡氏
BankVisionでは、オンプレミスで稼働するシステムを山梨中央銀行、北國銀行、スルガ銀行、大垣共立銀行、百五銀行、紀陽銀行、筑邦銀行、佐賀銀行、十八銀行、鹿児島銀行(金融機関コード順)の10行が共同利用する。勘定系をクラウドに移行させたのは北國銀行が初になる。実質的には、この取り組みは2016年度に始まり、稼働開始も2021年と比較的長期プロジェクトとなった。北國銀行 代表取締役 専務の杖村修司氏は、「絶対止められないミッションクリティカルな環境において、システム部門や経営管理部門が技術的にも顧客に迷惑をかけないで実施できるのか議論を重ねてきた」と語る。ユニシスの葛谷氏も、「邦銀システムはSLAが99.999%の稼働率を求められる。Azureで担保される技術的な裏付けをMicrosoftのエンジニアと詰めていた」と述べた。
北國銀行 代表取締役 専務の杖村修司氏
北國銀行では、9月に個人顧客向けインターネットバンキング「北國ダイレクトバンキング Happy!ライン」のクラウド運用を開始した。杖村氏は「可能であれば2020年にも法人向けインターネットバンキングの提供を開始したい」と話し、2021年には今回のBankVision on Azureの稼働、2024年に向けてはPaaS/コンテナー化を目指すとした。さらに、オンプレミス環境で稼働する120ものサブシステムをMicrosoft Dynamics CRMのxRM(プラットフォーム型CRM)としてクラウドに移行させる。今回の発表に併せてシステム開発を担う子会社「デジタルバリュー」を東京都内に設立し、xRMの内製開発などに乗り出す。
保守的と見られがちな金融業界がクラウド化に向かうことについて杖村氏は、「12~13年前では、『システムは最後、枯れたシステムが一番』という方針だった。トップが代わり、システムを起点にしなければ生き残れないという方針に転換した。既に年間経費の365億円を280億円に削減し、2025年までに30億円減を目指している。IT投資も行い、(イメージは)予算の7~8割を開発、2~3割を保守に回すが、ここ数年はクラウド移行で開発が半分を超えている状況」と、同行の積極姿勢を示す。
北國銀行ではビジネスモデルの変革に取り組み、既に「5~10年先も間違えなく生き残れるコスト構造」(杖村氏)を実現しているが、顧客向けシステムに関するIT投資を行うことで、地元の中堅・中小企業の個人、法人顧客のクラウドシフトも目指す。杖村氏は「地方銀行の使命は生き残るだけではない。北陸3県(富山、石川、福井)の発展へ継続的に貢献できるかだ」と、その意義を語った。