本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、日本ヒューレット・パッカード執行役員の五十嵐毅氏と、トレンドマイクロ取締役副社長の大三川彰彦氏の発言を紹介する。
「これから“5Gクラウド”がどんどん活用されるようになる」
(日本ヒューレット・パッカード 五十嵐毅 執行役員)
日本ヒューレット・パッカードの五十嵐毅 執行役員
日本ヒューレット・パッカード(HPE)が先頃、第5世代移動体通信システム(5G)時代に求められる大容量データ処理やレスポンス、安全性を満たすよう設計されたエッジコンピューティングサーバー「HPE Edgeline EL8000 Converged Edge System」の国内提供を開始すると発表した。
同社執行役員でハイブリッドIT事業を統括する五十嵐氏の冒頭の発言は、その発表会見で、新製品の適用領域として「5Gクラウド」という言葉を使い、今後有望な市場になることを強調したものである。
新製品の内容をはじめとした会見での説明については関連記事をご覧いただくとして、ここでは五十嵐氏の冒頭の発言に注目したい。
5Gクラウドという言葉は、5Gを活用したエッジコンピューティングにおいて、今後いわば「エッジクラウド」としてのデータセンターが必要とされるようになることを意味している。一般用語ではなく、HPEが今回の新製品を含めた自らの事業戦略のキーワードとして使い始めたものである。
五十嵐氏は図を示しながら、5Gクラウドには2つの利用形態があるという。
5Gクラウドの利用形態(出典:HPEの資料)
まず上段は、通信事業者が展開する5Gサービスによって出現するであろう5Gクラウドのイメージである。同氏は、「ポイントはデータの処理の仕方。エッジで発生する大量のデータを従来のクラウドへ全て上げるとコストも手間もかかるので、なるべく“地産地消”しようということで、エッジの近くでクラウドを実現するデータセンターを設置すればいいという考え方だ」と説明した。
一方、下段は、通信事業者が5Gサービスを全国津々浦々に展開するのはまだ少々時間がかかると見られるので、例えば企業や地方自治体が先に閉域網で利用し始める「ローカル5G」によって出現するであろう5Gクラウドのイメージである。ちなみに、ローカル5Gも新たな市場として今、非常に注目されている。
同氏によると、HPEは2018年6月に米国で開催した自社イベントで、「エッジはデータセンターとして、コア、クラウドに続く第3の拠点になる」と打ち出し、さらに人工知能(AI)によるアナリティクス機能を装備した「インテジェントエッジ」の実現へ向けて、2022年までの4年間で40億ドル(約4400億円)の投資を行うことを明らかにした。
今後、5Gクラウドという言葉が広く使われるようになるかどうかは分からないが、五十嵐氏の冒頭の発言は同社のこの分野への注力ぶりを示すものとして印象深かった。