マルチクラウド化を推進する「Azure Arc」--米MS沼本CVPが語る「Ignite 2019」の注目点

阿久津良和

2019-12-09 07:00

 Microsoftがグローバルで開催するフラグシップイベントを数え上げると、開発者向けの「Build」、同社パートナー向けの「Inspire」、ビジネスリーダー向けの「Envision」、そしてITエンジニア向けの「Ignite」が代表的なイベントとなる。日本マイクロソフトは12月5日に「Microsoft Envision | The Tour 東京」を開催したが、米国本社が11月に開催した「Ignite 2019」の発表内容から、「Microsoft Azure」に焦点を当てた記者説明会を併せて開いた。

 米国本社コーポレートバイスプレジデント(CVP)でクラウドビジネス担当の沼本健氏は各サービスソリューションについて、「カスタマードリブン(顧客主義)」というキーワードを多用し、顧客のために新技術を用いたサービスを提供する自社の姿勢を強調した。

Microsoftコーポレートバイスプレジデント(CVP)でクラウドビジネス担当の沼本健氏
Microsoftコーポレートバイスプレジデント(CVP)でクラウドビジネス担当の沼本健氏

 Ignite 2019における最大のハイライトは、マルチクラウド化を推進する「Azure Arc」である。複数のクラウドベンダーが提供するクラウドサービスを併用するアプローチだが、パブリックやプライベートを問わず選択したクラウド環境によってユーザーインターフェース(UI)やルール、文化が異なり、長期的な運用はITエンジニアへ大きな負担を強いる。この課題を解決するのが、オンプレミス環境やAmazon Web Services(AWS)、Google Cloud Platform(GCP)で稼働する仮想マシンやKubernetes、コンテナーなどをAzureポータルから制御可能とするAzure Arcの存在だ。クラウドシフトした業務アプリケーション(以下、アプリ)やSaaSソリューションもコンテナー化することで、マルチクラウドへの展開が容易になる。

 沼本氏は、Azure Arcについて「要素技術であり、より深いハイブリッドシナリオをサポートする」と説明した。また、Azure Arcの制御対象は仮想マシンにとどまらず、データベースも対象に含んでおり、異なるパブリッククラウド間のレプリケーションやセキュリティ管理も可能にしている。

今回の説明会で話題に上がったMicrosoft Azure関連発表
今回の説明会で話題に上がったMicrosoft Azure関連発表

 「Azure Synapse Analytics」は既存サービスの「Azure SQL Data Warehouse」を拡張した新サービス。一般的にデータ分析を行うには、ETL処理を簡易化する「Azure Data Factory」で各種データを統合し、Azure SQL Data Warehouseに代表されるデータウェアハウス(DWH)に蓄積したデータを与えた分析ソリューションの結果を「Power BI」などで可視化するが、このエンドツーエンドのワークフローをまとめたのがAzure Synapse Analyticsである。

 実行クエリーの付加状況に応じた内部リソースの拡張で安定したパフォーマンスを実現し、「Amazon RedShift」との比較では、TPC-Hベンチマークにおいて最大14倍高速/94%コスト減、TPC-DSベンチマークにおいて最大12倍高速/73%コスト減という結果になった。「Google BigQuery」との比較もほぼ同等だ。Azure Synapse Analyticsは、T-SQLベースの分析を行う「SQL Analytics」と「Apache Spark」、データ統合とUIを担う「Synapse Studio」で構成される。高速化の理由について、沼本氏は「テーブル結合検索時のパフォーマンスを引き出すようにクエリーエンジンを最適化した」と説明する。

 業務自動化の文脈では「Power Automate(旧Microsoft Flow)」「Power Virtual Agents」の2つを取り上げた。前者はMicrosoft Flowに「UIフロー」と呼ばれるエージェントを追加し、RPA(ロボティクスプロセスオートメーション)を実現する。後者はローコードでAIチャットボットを開発する「Microsoft Power Platform」の一部だ。

 本来、Microsoft Flowは接続するSaaSの公開APIやコネクターを用いて自動化していたが、「APIがないレガシーアプリはUI操作を必要とする。顧客需要を踏まえたカスタマードリブンでPower Automateに至った」(沼本氏)という。現在プレビュー版だがエージェントのインストールで自動化できるのはウェブ操作およびデスクトップアプリとなる。

 Power Virtual Agentsは「Azure Bot Framework」上に構築し、既存AIモデルに基づいた会話エージェントの開発が可能。沼本氏は「現場のパワーユーザーやシチズンデベロッパーがレガシーシステムを自動化」できると説明した。なお、Power Platformは前述の2ソリューションに加えて、Power BI、「Power Apps」も含み、「Microsoftクラウドとの親和性が高く、プロフェッショナル開発者向けのAPIや機能をパワーユーザーがブラックボックス的に利用できる」(沼本氏)

Microsoft Power Platformの概要
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