英ケンブリッジ大学発のCambridge Quantum Computing(CQC)は12月19日、日本法人「ケンブリッジ・クオンタム・コンピューティング・ジャパン」の設立を発表した。国内で量子コンピューターの実用化に向けた取り組みが本格化するのを見据え、日本市場に参入する。
同社は2014年に設立され、約60人の量子コンピューター研究者を含む85人が在籍する。英国と米国に複数の事業および研究開発拠点を持ち、米英以外では日本が初めての海外拠点になる。英国政府から支援を受けるほか、日本のJSRも同社に出資している。
Cambridge Quantum Computing 最高事業責任者のDenise Ruffner氏
同日の記者会見では、IBMで量子コンピューター「Q」の事業で要職を務め、10月にCQCの最高事業責任者に就任したDenise Ruffner氏が、事業概要などを説明した。Ruffner氏によれば、量子コンピューター市場は年率24.9%ペースの拡大が見込まれ、地域別では特にアジアや日本の顕著な成長ペースが期待されるという。JSRとのパートナーシップなどを背景に、量子コンピューター技術の応用研究が日本で進む可能性を期待して日本法人を設立したという。
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同社は、主に量子コンピューターのソフトウェア関連を手掛ける。量子暗号などのセキュリティアプライアンス「IronBridge」、コンパイラーや演算最適化などを行う「tlket(チケット)」、量子コンピューターでの化学計算を行う「EUMEN」などが中心だという。
特にIronBridgeは、量子情報理論に基づく独自の量子もつれを採用した量子暗号やハッキング耐性が高い乱数キーの生成、15種類のアプリケーションとのセキュリティ面での連携、鍵管理の機能、ソフトウェア開発キットなどの機能を備える。
Ruffner氏によれば、量子コンピューターは今後の開発によって性能が進化すれば、現在のIT環境で利用されているさまざまな暗号アルゴリズムが解析され、既存の暗号技術が危殆化してしまうことが危惧されている。このため同社は、そうした将来の可能性を見据えて量子コンピューターにまつわるセキュリティ課題へ先行して取り組んでいると説明した。既に大規模クラウドプロバイダーや金融機関などとの連携が進んでいるという。
量子コンピューターの応用では、JSRとの関係などから化学計算を中心に、化学研究者でも容易に量子コンピューターを活用できる環境作りを進める。また、主に通信分野とは機械学習によるサイバーセキュリティ対策、金融分野とはリスク分析や与信審査などへの応用を目指している。メディア・エンターテインメント分野などでは自然言語処理技術での応用も期待されているとした。
ケンブリッジ・クオンタム・コンピューティング・ジャパン 代表取締役社長の結解秀哉氏
日本法人の代表取締役社長には証券業界出身という結解秀哉氏が就任した。結解氏は、「日本ではハードウェア開発やフォトニクス技術、ハイパフォーマンスコンピューティングの取り組みが進んでおり、製造業における高度な品質管理も得意な市場。将来における量子コンピューターの拡大において、日本の技術や知見の活用が大いに期待される」と、日本進出の背景を紹介した。
Ruffner氏は、今後5年にわたって日本法人に対する投資を強化していくと表明、大学などの研究機関と連携した要素技術の研究開発や、各産業領域における応用や事業化の推進、人材育成などに注力していくとしている。