2010年の正月に時を戻してみよう。その頃の最高情報責任者(CIO)は、ブロックチェーンや量子コンピューティングの影響について頭を悩ます必要はなかった。Appleの「iPad」の発売さえ、その3カ月後という時期だ。
当時のCIOは、多くの場合、IT環境の運用さえやっていればよかった。IT部門の責任者は、自分の部門だけに閉じこもらず、他の部門と連携すべきだという風潮はあったが、社内の同僚や社外のパートナーと話をすることもなく、レガシープラットフォームの世話をしながら、ほとんどの時間をデータセンターで過ごすことも可能だった。
クラウドコンピューティングはまだ目新しい概念で、多くのCIOの目には誇大広告のように映っていた。企業はクラウドに手を出していたが、主な用途はテストや開発だった。大企業のCIOは、既存のアプリケーションやデータソースのプラットフォームを変更することは考えていなかった。当時はまだガバナンスやセキュリティに問題があり、クラウドは必要不可欠というよりは、あれば便利という程度の位置づけだったからだ。
もちろん、この10年間で、企業のIT環境の基礎は根本的に変化した。レガシーシステムという形での抵抗は一部に残っているが、今やIT環境の中心はクラウドになっている。環境に変化があったように、CIOの役割も変わった。
では、何がその変化を促したのだろうか。
筆者の考えでは、これにはいくつかの重要な要因が作用している。その1つはクラウドが徐々に成長してきたことだ。また、PCが衰退している原因の1つである、iPadの登場もやはり1つの要因だった。さらに、2010年4月3日に初代iPadが発売された少しあとに登場した別の製品も要因の1つになったと考えられる。6月に「iPhone 4」が発売されると、一般ユーザーは突然、仕事で使っていたデスクトップPCや携帯電話よりも小型で、優秀で、ほとんど同じくらいパワフルなさまざまなデバイスを購入できるようになった。
これが現実となったことで、ITのコンシューマライゼーションが進み、IT部門の役割が内向きから外向きに変わった。もちろん、この変化は一夜にして起こったわけではない。一般ユーザーが自分用のデバイスを購入したからといって、それを職場でも使えるとは限らなかったからだ。
実際、「コンシューマライゼーション」という言葉は、当初は良い意味では使われていなかった。これはシャドーITとも呼ばれていたが、この名前は、これが邪悪な行為であり、従業員は自分のデバイスを使うために、IT部門が定めた厳格なガバナンスを迂回しようとしているとほのめかしていた。