約35万人が利用するSaaSが抱える課題
損害保険業を中心に多角的な事業を手掛けるSOMPOホールディングスグループの傘下にあるSOMPOシステムズ。同社は、グループ内の戦略的IT企業に位置付けられ、情報技術を活用してグループ各社や顧客企業の事業活動を支援している。基幹システムを再構築する「未来革新プロジェクト」に取り組んでいるが、自社が運営する保険代理店向けシステムに課題を抱えていた。
保険代理店向けシステムは、損保ジャパン日本興亜の保険代理店の約35万人が利用するもので、代理店の契約事務作業を補完する機能を備えていた。SaaS(Software as a Service)を基盤とする「SoE(Systems of Engagement:顧客とのつながりを構築するためのシステム)」で、画面数が約250もある大規模なシステムである。
SOMPOシステムズ 取締役 副社長執行役員 CTO(最高技術責任者) 兼 SOMPOシステムイノベーションズ アドバイザーの小澤淳氏は「従来のシステムでは大きく2つの課題を抱えており、その解決が急務な状況となっていた」と打ち明ける。2つの課題とは、SaaSにおける「技術的な制約」「運用コスト」のことだ。
技術的な制約とは、「古いバージョンのウェブブラウザーへのサポート対応」に関する問題である。2017年当時、同システムのユーザーの中には「Internet Explorer 8(IE 8)」を利用している人もいた。IE 8については有償の延長サポートを利用してきたが、2018年夏に終了する計画であった。また、主要なウェブブラウザーがHTTPS接続のためのプロトコル「TLS 1.0/TLS 1.1」を無効化することを受け、その対応も必要となった。
もう1つの課題が「運用コストの低減」である。従来のSaaSではID単位の課金体系であったため、その運用コストをより低く抑えることを検討していた。その他にも「従来は変換ゲートウェイやリバースプロキシーなどの設定が必要であったため、システム周辺を含めた運用面での負荷を軽減したいと考えていた」(小澤氏)
それらの課題を解決するため、SOMPOシステムズでは保険代理店システムを再構築するプロジェクトを立ち上げた。より柔軟度の高いシステム環境を目指して、SaaSからPaaS(Platform as a Service)へと基盤を変更するCtoC(Cloud to Cloud)移行を実施することにした。
SaaSからPaaSへの移行という無理難題
SOMPOシステムズでは、移行に当たり幾つかの製品やサービスの検討を始めた。その結果、Salesforceが提供するPaaSである「Salesforce Heroku」(以下、Heroku)を採用し、開発・移行支援パートナーとしてアピリオを選んだ。同社は開発期間の短縮やコストを抑制するため、コンバージョンツールを使った移行方法を提案していた。
Herokuを選んだ理由として、小澤氏は「5年間のTCO(総所有コスト)を比較して選んだ」と語る。また、基盤としての安定性や品質、開発の容易性、保守性、拡張性なども総合的に判断したという。
クラウド導入によってシステムのポータビリティーは高まる。CtoC移行を実施すること自体は、今後さらに増えていくだろう。ただ、今回のプロジェクトでは通常のCtoC移行とは異なる点もある。
まず、SaaSからPaaSという「異なる種類のクラウド間の移行」であることだ。開発言語やデータベースなども全く異なるシステム環境への移行となるため、ソースコードレベルでの解析も含めたコンバージョンができるという高い技術力が求められる。
この保険代理店システムは、異なるIT環境にある保険代理店のユーザーがスマートフォンやタブレット、PCなどさまざまな端末からアクセスする。同システムを利用する約35万人のユーザーのITリテラシーもさまざまであるため、システムの使い勝手が変わってしまうと再教育やそのサポートにも多大な手間やコストが掛かってしまう。
SOMPOシステムズ 執行役員 兼 損保システム第一本部長 兼 損保システム第三本部長の白羽隆浩氏は「ITリテラシーの異なるユーザーが使用する代理店システムでは、操作性が特に注力しなければいけないポイント。今回は、現行システムの機能や操作性を全く変えずに移行することが大前提となっていた」と語る。その上で「開発も含めて移行に要する期間も重視した。当社が望んでいた期間でシステム移行を実現できるのは、アピリオの提案だけだった」と打ち明ける。
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