PwCの戦略コンサルティングチーム「Strategy&」は1月22日、3Dプリンティングの可能性と日本における課題について説明会を開催した。このタイミングで説明会を実施した理由は、3Dプリンティングはデジタル変革をけん引する技術である一方、ビジネスモデルにまで踏み込んだ調査は日本ではあまり見られなかったからだという。
PwCコンサルティング、Strategy& リーダー 三井健次氏
3Dプリンティングとは、設計データを基に物体を3次元で印刷する製造技術。製造工程は、3D CADソフトなどで作成したモデリングデータを3Dプリンターに読み込ませ、樹脂素材や金属粉などの材料に試作品や部品、最終製品を出力する。
3Dプリンティングのメリットには、1つずつ製造する分ロットの大小で単価が変わらないことや、使用場所やその近くで生産できるので柔軟な生産が可能になること、材料を取り除くのではなく足していくので廃棄物を抑えられることがある。今後活用が期待される産業は、宇宙航空産業や医療技術部門、自動車部門など。医療技術部門では、人工の骨やインプラントへの活用が考えられるという。
(出典:Strategy&)
「3Dプリンティングの市場は2028年に300億ドル(3兆円以上)を超え、特に金属3Dプリンティングが急成長すると予測される。現時点では金属以外(主に樹脂)が大半だが、技術の発展により、金属3Dプリンティングの成長率が高くなる」とPwCコンサルティング、Strategy& ディレクターの北川友彦氏は語った。これまで金属は加工がしやすい樹脂に比べて製造が困難だったが、技術の進化により容易になりつつあるそうだ。
北川友彦氏
北川氏は「3Dプリンティングでは、製品単体というよりもシステム全体においてコスト削減が見込まれる」と説明。航空機用ブラケットの場合、3Dプリンティングに最適な設計をすると、部品点数の減少と40~50%の軽量化につながる。これにより、飛行機の燃料コストを5年間で7億ドル削減することができる。加えて、3Dプリンティング向けに再設計すれば組み立てがしやすくなり、組み立てコストを3000~4000万ドル削減することが可能となる。その結果、大型航空機1機種の生産から終了までにおいて、合計100~200億ドルを削減できる可能性があるという。
続いて、PwCコンサルティング、Strategy& ディレクターの赤路陽太氏が日本における3Dプリンターの活用について語った。3Dプリンティングの技術は1980年代から存在していたが、3Dプリンターや素材、ソフト、通信の進化により、2018~2020年にかけて3Dプリンティングの市場は急速に伸びるとStrategy&は予測している。
赤路陽太氏
だが赤路氏は「米欧中と比べると、日本は3Dプリンティングに依然として消極的」と述べた。その理由として、ユーザー企業は最新情報に触れる機会がないことにより、過去に3Dプリンティングを活用・活用検討した際の「従来の生産方法に対する利点を見いだせない」というネガティブな印象を引きずっていることがあるという。
(出典:Strategy&)
世界では現在、品質基準が厳しい「ジェットエンジンの量産部品」に金属3Dプリンティングが採用されている。また、2018年の「ロンドンマラソン」の優勝者が履いていたシューズのアッパー(足の甲を覆う素材)は、3Dプリンティングで生産された。だが日本ではこういった世界の最新状況がほとんど認識されておらず、活用の検討が遅れているという。
「日本は世界の製造業をけん引してきたが、3Dプリンティングに関しては過去の遺物となっている。こういった価値観を捨て去り、最新のテクノロジーとして再評価してほしい」と赤路氏は語った。