多くの企業は現在でも、効果的なデジタル顧客体験の提供に伴う複雑さや、要件の急激な変化に対応できずにおり、それどころか平均的な顧客体験を提供することすら難しいのが実情だ。この問題に対してもっとも大きな責任を負うのが、最高情報責任者(CIO)と最高マーケティング責任者(CMO)だ。だが、CIOとCMOが密に連携を取り、現代ビジネスのもっとも重要な側面とも言える優れた顧客体験を持続的に提供することには困難が伴う。
かつて、デジタル顧客体験の提供は、ウェブサイトや、ソーシャルメディアプレゼンス、1、2のモバイルアプリだけを扱っていればよい比較的単純な仕事だったが、今や、顧客が企業に求めている、顧客との関わり方への期待は、極めて高水準なものになっている。今ではそこにあらゆるものが含まれるようになった。顧客が選択したサードパーティーデバイス(「Alexa」や「Googleアシスタント」、Oculusのデバイスなども含まれるかもしれない)に対応できる、あらゆるデジタルチャネルでのリアルタイムエンゲージメントから、あらゆるアプリの統合、アドオンサービス開発者エコシステムの充実、実際に役に立つコンテキストに応じたパーソナライゼーションまで、多くのことを考えなければならない。
困ったことに、ほとんどの企業は、顧客体験に関する取り組みの成果を過大評価している。顧客側が実際に享受していると思っているものと、企業側が提供していると考えているものの間に、大きな差があるのだ(評価のギャップは2桁にも及ぶ)。
AppleやAmazonなどの市場をリードする企業が世の中のスタンダードを設定しようとしている中、平均的な企業が市場で対等に戦い、デジタル顧客体験の提供からメリットを得ようとすれば、並々ならぬ取り組みが必要になる。それができなければ、ゼロからデジタル化を進めてきたテクノロジー大手企業に食い物にされる敗者になってしまうだろう。長きにわたって生き残り、繁栄をつかむためには、デジタル化を担当する役員が、文化や組織、業務プロセス、技術基盤などに生じる問題を修正していく必要がある。それも素早く。
問題はCIOとCMOが抱える情報サイロ
エンドツーエンドのデジタル体験に関する筆者の最新の調査によれば、成功を妨げているもっとも基本的な要素は、組織のトップが抱えている情報サイロの克服だ。IT部門は顧客体験のベースとなるデータ、アナリティクス、アプリケーション、システム統合などの分野を得意とする一方で、マーケティング部門は顧客をよく理解しており、デジタル顧客体験の多く(ただしすべてではない)を生み出して提供する役割を負っている。顧客体験の内容の3分の1から半分は、マーケティング部門が担うべきものであり、通常は、最初の部分である顧客の獲得と、最後の部分である顧客の維持やアドボカシーに関する部分がCMOの責任になる。
注意:この記事では、営業や事業運営、カスタマーサービスなどについては対象としないが、これらの情報サイロについても、シームレスで効果的な顧客体験を生み出す妨げになる、さまざまな課題が存在する。しかしここでは、CIOとCMOの間にある課題の解決に焦点を当てることにする。