日本マイクロソフトは2月4日、文部科学省(文科省)の生徒1人当たり1台のPCと大容量ネットワーク整備を目的とした「GIGAスクール構想」への賛同を表明し、PCメーカー8社と共同で「GIGAスクールパッケージ」を提供すると発表した。記者会見した執行役員 常務 パブリックセクター事業本部長の佐藤友成氏は、「自治体の首長からも強い要望をいただいている。日本全体の期待に応えられるよう、OEM各社と提供環境をそろえたい」と意気込みを語った。
日本マイクロソフト 執行役員 常務 パブリックセクター事業本部長の佐藤友成氏
文科省は、2019年12月19日に1回目の「GIGAスクール実現推進本部」を開催した。「『ハード』『ソフト』『人材』が一体となった施策を推進することが必要。子どもたちのための環境整備」(萩生田光一文部科学大臣)という目的により、2019~2022年度の4カ年計画でPCやネットワークなど、教育ICT環境の整備を目指す。具体的には、PC1台当たり4万5000円を補助し、2023年度までに小中学校の全学年で1人1台、費用の2分の1を補助することで、全ての小中高・特別支援学校などで校内ネットワークを2020年度中の完備する。学習用コンピューター標準仕様を満たしたPCを都道府県レベルで共同調達するというものだ。
マイクロソフトは、以前からグローバルで文教部門への取り組みを続ける。国内では、ICT整備環境貸し出しプログラム「Microsoft 365 Educationステップモデル校プロジェクト」を小中学校では6自治体、高校では3自治体で実施している。モデル校の1つ、埼玉県の戸田東小学校(戸田市)について、業務執行役員 パブリックセクター事業本部 文教営業統括本部長の中井陽子氏は、「協働的な学びと子どもたちの自走性を育み、子どもたちの個性を醸成につながった(文科省の)日本で実現したいビジョンにつながる」と成果を紹介した。
日本マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター事業本部 文教営業統括本部長の中井陽子氏
マイクロソフトが「GIGAスクールパッケージ」を提供するのは、文科省の構想に合わせた自然の流れといえる。同パッケージは、「GIGAスクール対応PC」「GIGAスクール構想に対応した教育プラットフォーム」「MDM(モバイルデバイス管理)による大規模な端末展開とアカウント管理手法の提供」「学びと働き方同時改革する教育研修の無償提供」「『教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン』に対応可能なクラウド環境」の――5つの特徴があるソリューション。GIGAスクール対応PCはDynabook、デル、マウスコンピューター、レノボジャパン、富士通、日本HP、日本エイサー、NECから17機種が提供される。基本は無線LANモデルだが、LTEモデルも用意する。
GIGAスクール対応PCのメーカー
教育プラットフォームについては、米Microsoftも支援体制を固め、Windows 10およびOffice 365 Educationを特別な低価格(未公表)で、私立を含む初頭中等教育機関および高等学校に提供する。展開およびアカウント管理はMicrosoft IntuneのクラウドマネージドモダンデスクトップやMDM機能で展開時間や管理コストの削減を目指す。従来の大規模展開はサーバー設計やActive Directoryのドメイン環境の構築、ユーザー登録、展開するマスター構築などを必要としていたが、クラウドとMicrosoft Intuneを活用することで、導入プロセスを大幅に短縮可能だという。
必然的に、Azure Active Directoryの運用になるが、生徒が学校を卒業する際のID管理について、「われわれとしては(IDを)使い続けてほしいが、それは自治体しだい」(中井氏)と、運用にまつわる課題も浮き彫りになった。なお、同パッケージを展開するに当たり、同社は「GIGAスクール端末設定ガイドブック」なども合わせて配布する。
また、教員側に対する施策では、都道府県・政令市単位で日本マイクロソフトのスタッフなどが教育センター向けに研修プログラムを提供し、既存の教員向けトレーニングコンテンツ「Microsoft教育センター」を拡張して、GIGAスクール向け研修メニューを用意する予定だ。現場の教員向けにはMicrosoft Teamsを用いた授業活用や協働学習、Microsoft Formsによる課題提出などを用意。運用管理者向けにはアカウント作成やライセンス割り当て、Microsoft Teamsのチーム作成といったOffice 365運用が中心となる。
文部科学省は、2017年からセキュリティポリシーの策定や配慮すべきポイントをまとめた「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を提示してきた。このガイドラインでは、個人情報をはじめとする人的なセキュリティ対策や、情報資産管理の国内法適用、係争時は管轄裁判所が日本国内とするといった運用について言及している。Microsoftは、Azureでクラウド環境における個人情報保護(ISO27018)やプライバシー情報管理システム要件(ISO27701)など個人情報規定に関する認証を取得しており、監査面も2016年2月にCSゴールドマークを取得済みだ。また、法律面もデータ運用を国内の東西リージョンで運用するため、管轄裁判所や国内法の面もクリアしている。
GIGAスクール構想では、従来の地方財政措置の1805億円の5カ年分と2019年度の補正予算案で成立した2318億円が実施予算として計上されている。文科省は1人1台PCの実現に「基本モデル例」を提示しており、「Windows OSデバイス×教育機関向けOffice 365ライセンス」「Chrome OSデバイス×G Suite for Education」「iPadOSデバイス×Apple製教育用アプリケーション」の3つを提示した。日本マイクロソフト、グーグル、アップルの3社は、この構想の初期段階から文科省によるヒアリングを受けており、各社の立場で文教市場にコミットしてきたことからも、これを好機と見ているようだ。
日本マイクロソフトの中井氏は、特徴を強調しつつ地方自治体関係者との談話を披露し、「『(1人1台のPCは)最も大きい投資でコストではない』と語っていた。米国では(先行するタブレットは)中高学年になると限界に達するケースもある。買い直すのであれば、最初から良いモノを使い続けてほしい」と語った。