本連載でこれまで、教育ITの現状やシステム運用管理から見た重要性、ベンダーとの付き合い方などを述べてきた。今回はそれらの現時点での総括として、教育ITが必要になってきた“そもそも論”と教育ITが成功した暁に実現する素晴らしい将来像について述べていきたい。
ITによって変わる未来の職業や社会
2019年時点で小中高校に在籍している児童や生徒たちも、10~20年もすると、そのほとんどが社会に出て働いているだろう。その近い未来の社会は、今とは大きく異なっているかもしれない。
例えば現在、シリコンバレーの巨大IT企業や自動車メーカー、自動車部品メーカーが高額の研究開発費を投じている自動運転車は、それほど遠くない未来に、世界中に行き渡るだろう。そうなれば、タクシーやトラックの運転手、郵便配達などを生業にしている人々は職を失ってしまう。スポーツの審判なども、人工知能(AI)やディープラーニングなどが進化すればリアルタイムの動画解析によって、正確な判断を瞬時に行えるようになるかもしれない。この10月に始まった毎回視聴率20%を誇る定番のテレビドラマでも、主役ほかの外科医が診察室や手術室にあるAIの指示を受けながら手術をしている。このような例は、そろそろ枚挙にいとまがなくなってきた。コンピューターや機械に取って代わられる職業は、今後さらに多岐にわたるだろう。
オックスフォード大学でAIなどの研究を行っているMichael A Osborne准教授は、「今後10~20年の間に、現在の米国にある職業の47%がコンピューターに取って代わられるだろう」と予想し、同氏の著書(同大学のCarl Frey研究員との共著)の『雇用の未来—コンピューター化によって仕事は失われるのか』という論文が世界で話題になった。これは5年ほど前のニュースだが、その内容が正しいとすると、あと5年後の2024年のパリ五輪が開催されている頃には、そのような社会が普通になっていたとしても全く不思議ではない。
このようなことは、AIが主語となって語られることが多いが、このような未来像は「IT革命」などと騒がれた1990年代の頃から既にあった。四半世紀以上前からのコンピューターやITの進化がやっとここまで来たという方が正しいかもしれない。さらに、その四半世紀以上も前には、鉄腕アトムやドラえもんのような21~22世紀の未来を語るアニメが身近に存在した。このような経緯があり、日本人にとって「機械からIT」、そして、AIやデジタルトランスフォーメーション(DX)というようなことは非常に納得がしやすい。今後も注目される技術分野やトレンドはその都度変わるかもしれないが、想像できなかった未来というより、むしろ「やっとここまで来たか」と感じる程度のものなのかもしれない。
このような世界的な変革の流れの中では、良いことも悪いことも含め、さまざまな事態が発生するだろう。一言に「コンピューティング」としても、ITやIoT、AIなどのさまざまな技術が融合しており、その結果としてサイバー空間と物理的な空間界の境界線がどんどんなくなってきている。その結果、世界の有り様はややこしいものになってきており、日本にとって教育ITは、そのような複雑な環境になっても生き残っていくために必要不可欠な試みだと言えるだろう。