デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉は、急速に変化するビジネス環境に適応するために、テクノロジーを活用して企業を変革しようという考え方を表す用語として以前から使われてきた。しかし、かつては劇的な変化を起こすものだと考えられていたDXも、今では、コンピューターやコストが増えるだけで、従来どおりのビジネスを続けることを意味するようになってしまっている場合が多いかもしれない。
ロンドンに本社を置く配車サービスAddison Leeの最高製品・技術責任者を務めるIan Cohen氏は、「アナリストがむやみに乱発し、主にコンサルタントが定着させた『デジタルトランスフォーメーション』という言葉は次第に、企業が今やっていることや今後やるべきことを、既存の技術や新技術を使って行うことほぼすべてを表す、あまり意味のない言葉になってしまった」と話す。
Cohen氏によれば、顧客や従業員は、テクノロジーの使いすぎや、大風呂敷を広げておきながら成果を挙げられないDXに幻滅し始めているという。「私たちはもっとうまく成果を上げる必要がある」と同氏は話す。
問題の一部は、解決すべき課題を理解しないまま、テクノロジーを導入するという間違いを犯す企業が多すぎることにある。多くの企業は、市場の破壊的な変革を恐れて何らかのDXプロジェクトを進めるべきだと考えているが、そのことは製品を売りたいベンダーに売り込まれる隙を作ってしまっている。
実際、Frost & Sullivanが実施した、トップエンドユーザー企業のITに関する優先順位を分析した調査によれば、企業は、現在利用している技術を更新する理由の1つにDXを挙げている。
しかし、その成果はあまり出ていない。英国のクラウドコンピューティング業界団体Cloud Industry Forum(CIF)が、IT部門の役割の変化を分析する調査の中で述べているように、企業がDXに取り組み始めてからかなりの時間が経っている。しかしCIFは、それだけの助走期間があったにも関わらず、DXの進展状況は芳しくなく、英国企業のうち、DX戦略を確立しているのは4分の1(28%)にすぎないと報告している。
CIFが述べているように、DXの取り組みには終わりがないとしても、この数字は低すぎる。CIFの分析では、デジタル化を妨げている主な課題として、必要なスキルを持った人材の不足や、予算不足などを挙げている。しかし重要なのは、このレポートでは、そもそも企業がDX戦略に取り組んでいる理由がほとんど分からないことだ。