私たちが生活していく上で、社会インフラは当たり前のものとして存在している。朝起きて、電気をつけて、ガスでお湯を沸かして入れたコーヒーを手に、テレビでニュースを見ながらコンビニで買ったパンを食べる。車や電車・バスに乗って通勤・通学をしながら、スマートフォンで買い物したり、ゲームしたり――。この何気ない私たちの生活を支えているのが、電力やガス、金融、水道、流通、輸送、通信、ビルシステムなどの社会インフラである。
日本の社会インフラは世界的にも安定し、災害などにも強いとされてきた。しかし近年、想定外の事象が次々と日本の社会インフラを襲っている。地震や台風が社会インフラを直撃することで、何週間も停電が続いたり、列車が運休となったりするなど、これまでの当たり前が、「当たり前ではない」ことに気づかされる機会が増している。さらに、昨今の新型コロナウイルス問題によって、リモートワークの推進、満員電車問題、大規模イベントの在り方など、これまでの当たり前を見直すことが急務となっている。これらの事象に対して、社会インフラはどう備えていけばよいのか。華々しいスマートさの追求だけではなく、さまざまな事態を想定した柔軟でかつ粘りのあるインフラというものが求められているように感じる。
本連載では、「スマートシティー」という次世代の社会インフラの安心・安全を確保するために、現在、世界中で実現・検討されているスマートシティーの取り組みを紹介しつつ、主に筆者の専門であるサイバーセキュリティの視点で、さまざまな事態を想定し、その対策について考えてみることで、柔軟でかつ粘りのある社会インフラの実現に貢献することを目指している。
スマートシティーの目的
個別のスマートシティーを検討する前に、まずスマートシティーの目的について考えてみたい。内閣府の最新の定義によると、スマートシティーは、「Society 5.0の社会的実装の場」となることが示されている(原典PDF)。
Society 5.0とは、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」のことである(図1、原典PDF)。すなわち、センサーなどのデバイスを用いて、現実空間からさまざまなデータを大量に集め、それらをサイバー空間上のAI(人工知能)などを使って解析し、現実空間の人やシステムにフィードバックすることで、省エネや、納期短縮、行政サービスの改善といった新たな価値を生み出すことを目指している。
その結果、「経済的な発展」と「社会的課題(少子高齢化による労働者不足、地方の過疎化、地球温暖化など)の解決」を実現しようというものだ。従って、今後の日本のスマートシティーの目的は、「経済的な発展」と「社会的課題の解決」だといえるだろう。
図1.Society5.0の実現イメージ(出典:内閣府)