海外コメンタリー

脳の活動を記録する技術の進化--マイクロワイヤーアレイとCMOSチップによる取り組み

Daphne Leprince-Ringuet (ZDNet UK) 翻訳校正: 村上雅章 野崎裕子

2020-04-10 06:30

 人間の心をコンピューターにアップロードできるという未来に向け、われわれはまた1歩近づいた。大西洋を挟む国々の研究者のチームが、電話やカメラの電子回路を構成するようなシリコンチップを、脳内の神経回路につなぐ実験に成功したのだ。

 この新手法は、マウスによって実証された後、同分野の専門家らの査読を経て、科学誌「Science Advances」の最新号で発表された。

 研究者らは同記事に、「CMOSベースのデバイスと3次元神経系インターフェースを組み合わせた、集積性と電子的な処理能力という利点を生かすための新たな戦略をここに報告する」と記している。これは、互いに独立したマイクロワイヤーの束に、「カメラ製品やディスプレイチップ内で用いられているピクセルアレイのような」大規模CMOS増幅アレイを接続するというコンセプトに基づいている。

 科学者らは、脳深層部の活動を調べると同時に、広い範囲の領域から信号を記録するために、細いマイクロワイヤー(人間の髪の毛に比べると15分の1近くの細さになる)でできた電極の束をマウスの脳に装着し、そのワイヤー群と半導体のチップを接続した。このワイヤー群は脳の奥深くに装着可能であり、各ワイヤーは1〜2個の神経細胞の活動に反応するようになっている。

 神経細胞の活動によって生み出される電気信号は、マイクロワイヤーを通ってシリコンチップに伝えられ、そこで増幅され、研究者たちが読み取れるデータに変換される。

 フランシス・クリック研究所で行動神経生理学を研究しており、今回の研究に携わったMihaly Kollo氏は米ZDNetに対して、「脳からの信号を伝える各ワイヤーは、同じチップ上に作成された増幅回路群にそれぞれ接続されている。ワイヤーの先端部分では、神経回路からの微弱な信号でも検出できるよう、ちょっとした工学的技術が必要になったが、チップ上の増幅回路は非常に高い感度を実現した。これによりわれわれは、神経細胞から出てくるあらゆる信号を捉えられるようになった」と述べた。

 Kollo氏は、単一のチップを用いてすべての信号を送受信するということは、脳の働きを記録、読み取ろうとする以前の取り組みに比べると格段の進歩だと説明した。大脳皮質の信号を電極によって読み取るというのは目新しい話ではないが、今まで研究者らはそれぞれの電極を頭蓋骨の外側にある個別の増幅器に接続しなければならなかった。言い換えれば、ワイヤーを増やせば、より多くの増幅器が必要となる、つまり全体的に見た場合の利便性、特にスケーラビリティーに劣るものとなっていた。

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