ヒトの脳を支援する「ブレインテック」、今後10年の展望

ZDNET Japan Staff

2020-03-09 14:07

 野村総合研究所(NRI)は、現在から5年ほど先までの技術の進化や動向を独自に取りまとめた「ITロードマップ2020年版」を発表した。その中で、人間の脳の活動を理解し、その知見をビジネスに活用するという「ブレインテック」の今後10年の動きを予想している。

 NRIは、ここ数年で特に、最新の機器や端末、ソフトウェアによって医療以外の分野でも脳に関する情報を活用する取り組みが始まっていると指摘する。ブレインテックを構成する技術領域は、(1)脳の活動データの取得とその分析、(2)自分の脳の状態を確認・意識させて本人に行動変容を促すアプリケーション「ニューロフィードバック」、(3)脳とコンピューターを接続するインターフェース「BCI」――の3つに大別されると解説する。

 特に、ビジネス面での現実的な応用が進んでいるのが、脳の活動を分析したデータをマーケティングや製品開発、UI/UXの改善に活用する「脳の活動データの取得とその分析」の領域だといい、これは「ニューロマーケティング」と呼ばれる。また、BCIもコンピューターの小型化や人工知能(AI)技術の進化などを背景に、応用への取り組みが活発化している。

 同社では、ブレインテックの今後10年の展望を短期、中期、長期の3つのフェーズで下記のように予測する。

短期(1~3年):機器・端末の進化とともに脳活動の可視化が始まる

 脳の活動量を計測するのための機器や端末の小型化に伴い、脳の活動をデジタルデータとして読み取り、その活用を目指す企業が増加している。国内のニューロマーケティング分野では、2018年頃から実践事例が増え、マーケティングの高度化におけるデジタル施策としてさらなる拡大が見込まれる。ただ、マーケティング用途の場合は、脳波を取得、分析する対象が、同意を示した実験参加者に限られる。一般消費者向けには、簡易型の脳波計測器が登場し、当初は集中力や睡眠品質の向上を目的としたアプリケーションとセットで提供されると予想される。健康増進サービスや個人の能力拡張を支援するサービスの拡大が始まる時期にもなる。

中期(3~5年):脳波分析の拡大とニューロフィードバックのサービス化

 脳波分析の対象がマーケティングからUI/UXの最適化に拡大する。この取り組みが増えるに伴い、少ない被験者から得た脳波分析の結果から汎用性を予測する「ニューロフォーキャスティング」が必要になる。広告の効果予測や世論調査などの実験事例はあるものの研究段階にとどまっており、今後事例が増えれば、脳波解析実験の結果より実際のマーケティング成果との隔たりがモデル化され、予測精度が向上すると期待される。また、機器などを使って理想的な脳の状態を作る「ニューロフィードバック」を行動変容に活用するサービスが本格化する。個人向けに加え、プロスポーツチームを対象にパフォーマンスの向上を目指すサービスや、企業の従業員向けの健康増進サービス、組織の生産性向上を目的とするサービスなどが増加すると予測される。

長期(5~10年):BCI実現に向けた進化

 ブレインテックは、脳とコンピューターをつなぐBCIの実現に向かって発展していく。ただし、医学的・脳神経科学的な研究や倫理面の合意が必須であり、人間への影響も大きいため、実現には相当時間がかかると予想される。ニューロフィードバックの活用事例が増加することで、データの蓄積が進み、脳の活動データが人間の理解を深めるための重要なデータソースとなり、人間行動のモデリングに活用されることが期待される。

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