ガートナー ジャパンは3月30日、テレワークの緊急導入を迫られている企業が検討すべき論点を発表した。「対応を求められても何から始めたらよいか分からない企業が多数存在している」(同社)という。
同社によれば、新型コロナウイルス感染症にリスク対策として、テレワークの緊急的な実施に向けた対応を迫られている企業が急増している。アナリスト シニア プリンシパルの針生恵理氏は、「何らかの事情で自社のオフィスで働けない状況が訪れる可能性がある。従業員がオフィスでしか働けないという状況はビジネスを止めることにつながり、従業員の健康リスクを増大させかねない。今後の事態に備え、企業は、今こそ真剣にテレワークを考え、有効な施策を実施すべき」と提起する。
同社は、テレワークで検討すべき事柄を次の「5W1H」で解説している。
なぜテレワークを行うのか:Why
検討を進める上で、「なぜテレワークを行うのか」という目的が重要な論点になる。すなわち新型コロナウイルス感染症対策での「緊急的な暫定措置」か、あるいは働き方改革など「恒久的措置」なのかを考える必要がある。
緊急的な暫定措置としてテレワーク導入する場合は、いかに早期に「可能な限り外出の抑制措置を講じ、また実行できるか」がポイント。最低限の仕事ができる状態にどう早期に持っていくかが問われる。「この場合は、既存のものを利用して可能な範囲で実施する。従業員にできるだけ多くの仕事をさせようとすると頓挫してしまうため連絡手段を確保するなどしてできる範囲で在宅勤務に移行した後で、必要なものをそろえていくといったアプローチを採用する」(針生氏)
暫定措置から恒久的措置に移行する際には、さまざまな留意点がある。考え方、アプローチ、振る舞いなどの観点から例えば、完璧を求め過ぎないことや無駄な管理を減らしていくことが挙げられる。
いつテレワークを行うのか:When
テレワークを実施するタイミングと「人、モノ、カネ」の有無について、早期に社内関係者の共通認識を得ることが求められる。いつ行うかは、テレワークに速やかに移行する場合と段階を踏む場合の2つのポイントに分けられるだろう。緊急時は基本的にできるだけ全ての人を対象に速やかに移行する。段階的な場合は移行のタイムフレームと誰がテレワークを行うかを整理するところから始めるとよい。
ここで特に留意すべきポイントは、「決められたタイムフレームの中で実施した時に仕事に必要なものがそろわないと結局は従業員が会社に来てしまい、テレワークが成り立たなくなる可能性がある。急いで行う場合は、とりあえず紙文書を持ち出す、なし崩し的にPCにファイルをダウンロードして持ち運ぶなどの事態が発生する可能性があるため、文書ファイルに対する日常的な取り組みが必要」(針生氏)
どこでテレワークを行うのか:Where
今回の感染症対策など外出抑制を意図するものは、基本的に自宅でのテレワークが前提となる。不特定多数の人が集まるような場所での仕事は、感染症対策としては原則「禁止」とすべきである。
一方で働き方改革の一環として今後取り組んでいく場合は、「自宅では仕事ができない」などの事情を考慮し、自宅だけでなく、サテライトオフィスやカフェなどでの仕事を認めるケースも考えられる。その場合は、無料のWi-Fi接続やPC画面ののぞき見など予期せぬセキュリティ上の問題が発生する可能性がある点に留意し、対策を講じるべきである。
誰がテレワークを行うのか:Who
(Whyの項目を踏まえて)緊急事態にはスピード感を持って進めることが重要だが、「何とかなるだろう」と全社で一気に進めても、実際には業務が滞る恐れがある。オフィス勤務者の業務はさまざまであり、対象者をグルーピングし、優先順位を決定することが重要になる。緊急時は会社として従業員を守るという観点で実施されるため経営判断になるが、実施範囲によって早急に準備すべきインフラ環境が変わってくる可能性がある。
恒久的措置では、特別な事情がある特定従業員に限定するのか、あるいはその他の一般従業員も含めるのかなど、誰を対象とするのかについて検討する。仕事の内容によってテレワークが難しい従業員もいるが、将来的な働き方改革の取り組みでは、何らかの形で実施できないかを、あらゆる従業員を対象に検討しておくべき。また、非正規雇用者への対応なども会社として議論しておく必要がある。
何を使用してテレワークを行うのか:What
何を使用してテレワークを行うのかを考える必要がある。緊急対応であれば、使い慣れたスマートフォン、PC、メールなどの最低限のインフラやアプリケーションでスタートし、その後に必要なツールを追加していくというアプローチが採用される。
緊急措置と恒久措置では、求められるものが異なる可能性がある。日頃からその利用に慣れておかなくてはならない。勤怠管理や経費精算などの日常業務に必要なツールを急に入れ替えることは困難だが、それらがオンプレミスでないと動かないために会社に来る必要が生じる場合はこれを機に見直すことも重要である。
テレワークで検討されるテクノロジーとサービスの例(出典:ガートナー ジャパン)
どのように実施するか:How
テレワークをどう進めるのか決める必要がある。緊急時は全社一斉適用になるが、恒久的には段階的な実施を検討し、その進め方は、例えば、試験的に週1回実施からスタートし、問題点を整理した上で週2~3回に拡大していくといったアプローチを検討する。テレワーク実施でさまざまな問題が発生することが考えられ、企業はテレワークのサポートセンター設置なども併せて検討するのが望ましい。