日本マイクロソフトは5月27日、新型コロナウイルスの影響を受ける中堅・中小企業やスタートアップ企業に向けた既存の支援施策の拡大や新規の支援施策を発表した。コミュニケーション環境の支援としてMicrosoft Teamsの無償オンラインワークショップの提供範囲を拡大するほか、デスクトップ環境支援として同社のDesktop as a Service「Windows Virtual Desktop(WVD)」の導入支援期間を7月以降に延長し、セキュリティ診断サービスも拡大する。
また、社員や組織の風土、制度改革支援として、6月1日から中堅・中小企業向け「中小企業のリモートワーク応援プロジェクト」を開始する。5社のOEMと共同で各種取り組みを行うが、第1弾としてリモートワークに最適なPCと無償版のMicrosoft Teamsを組み合わせた環境構築とリモートワークを実施するためのガイドを提供する。さらに大企業も含めたテクノロジー活用支援として、「Xインテリジェンス・センター」に事業継続を目的とする技術相談サポートの「よろず相談所」を開始している。
日本マイクロソフト 執行役員 コーポレートソリューション事業本部長の三上智子氏
Microsoft CEO(最高経営責任者)のSatya Nadella氏は、先日オンラインで開催した「Build 2020」の基調講演で、「この2カ月で2年分のデジタル変革が起きた」と述べた。日本マイクロソフト 執行役員 コーポレートソリューション事業本部長の三上智子氏によれば、Microsoft TeamsのグローバルのDAU(1日当たりのアクティブユーザー数)が7500万人を超え、日本での利用率は4月上旬の緊急事態宣言を受けて急成長しているとい、「日本でもデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいることを実感した」と語った。
なお、Microsoftのエンジニアチームはウェブ会議ソリューションの需要増に伴い、Microsoft Teamsに関するフィードバックを最優先で収集しているとのこと。他方でWVDの利用数もグローバルで3倍以上(3月28日時点)に増加している。自宅勤務を強いられた世界中のユーザーが新たなソリューションを活用して、業務を継続する様がうかがえる。
日本マイクロソフトが顧客に対してリモートワークの実施状況をヒアリングした結果(対象1246社、5月26日時点)によれば、中堅。中小企業の50%が実施中という。そのうち26%は検討中、残る24%は紙ベースの業務対応、ネットワーク基盤や帯域不足といった多様な課題から予定していないと回答した。
日本マイクロソフト調査による中堅中小企業のリモートワーク実施状況
このような状況を踏まえて同社は、3つのフェーズを示す。まずは遠隔地からのオンライン会議や商談を可能にし、効率的なコラボレーションや社内システムの安全なアクセスを実現する「リモートワークへの移行」、次に新型コロナウイルスが沈静化した後は、紙ベースの業務をデジタル化したりセキュリティおよびガバナンスの強化、運用の省人化や自動化などを実現したりする「事業回復への対応」を挙げる。そして事業戦略の革新的な改善や社員の意識改革、組織の風土改革、新規ビジネスを創出する「ニューノーマル(新常態)」へと段階を踏むことがDX推進につながると提唱した。
既にリモートワークを実現しているとして4社の事例も紹介した。各種包装用フィルムの製造・販売を手掛けるアイセロは、BCP(事業継続計画)対策として、2019年12月にMicrosoft Teamsを全社展開した。昨今の新型コロナウイルスに伴い、「一気に社内へ広まった」(三上氏)という。
WVDを国内で初導入した北九州市立大学は、既存の運用していたサーバーVDIの利用環境の改善を求めていたが、WVDを導入することでコストを4分の1まで削減した。わずか1週間でリモート環境を構築しており、「『WVDとTeamsがスマート。新型コロナウイルスから世界を守るのはMicrosoftかもしれない』との声をいただいた」(三上氏)とする。
新型コロナウイルス対策とBCP対策を行う福井銀行は、個人所有のPCをBYODとして使用し、WVDとFIXERのBYOD基盤「cloud.config」を組み合わせることで、わずか3週間でテレワーク環境を実現した。また、文化財関連事業を手掛ける佐賀県のとっぺんは、多くの地方企業が共通に抱える人材獲得に苦慮してきた。この課題を解決するため、Empowered JAPANが開催する研修会に参加したところ、ウェブ会議の必要性を実感してMicrosoft Teamsを導入しその結果、千葉県の人材採用につながり、今後もリモートワークを選択肢の1つとして捉えている。
事業回復への具体的な対応例としては山口銀行、もみじ銀行、北九州銀行の3行を抱える山口フィナンシャルグループ(FG)の事例も紹介した。山口FGは2月下旬から新型コロナウィルスの感染拡大の対策として、テレワークへの移行を検討したものの、その時点で利用可能なPCは100台程度であり、営業担当者用に配布を予定していたSurfaceをテレワーク用PCとし、約600台を再度キッティングした。加えてMicrosoft Teamsを用いたウェブ会議を推進するために、マニュアルの準備やデモンストレーションの実施などによる社員トレーニングも実施した。
山口フィナンシャルグループ IT統括部の來島友治氏
今後の課題として山口FGではネットワーク負荷増大への対応と、さらなるリモートワーク環境整備の2点を掲げる。「日を追うごとにリモートワークに慣れ、(ネットワーク帯域が)ひっ迫している」(同FG IT統括部の來島友治氏)という。具体的にはVPNで社内ネットワークに接続してウェブ会議を実施していることから、社内のポータルサイトにウェブカメラの映像を無効にするなどの注意喚起を行い、通信経路の変更を行っている。今後はWVDを利用したBYOD環境の検証や、非対面による接客・営業の仕組みを検討していくと語った。
日本マイクロソフトは、2019年12月に社会課題解決スタートアップ支援プログラム「The Connect」を開始した。大手企業とスタートアップ企業のマッチング強化が主な目的だが、当時の説明では2020年内に100社を目標に掲げていた。三上氏によれば、現在は47社が参画している。そしてニューノーマルへの移行例として、4月20日に発表したTelexistence(TX)との協業を取り上げた。日本マイクロソフトとTXは、TX製ロボットとAugmented Workforce Platform(拡張労働基盤)を通じて、物理的な労働を行うことを目標に掲げている。
Telexistence 代表取締役兼最高経営責任者の富岡仁氏
具体的には労働力不足や人件費の高騰といった課題を抱える小売業界向けにクラウドロボティクスサービスを7月から提供する予定だ。現在はコンビニエンスストア企業と取り組みを進めており、遠隔操作が可能なロボットが203形状、約2200種類の商品陳列を可能にする。TX 代表取締役兼最高経営責任者の富岡仁氏は、「オフライン(現場)の仕事を遠隔化するソリューションがない。インターネットとVR(仮想現実)ヘッドセットがあれば、低賃金地域からの人材確保も可能になる」と話し、店舗の立地のとらわれない労働参加や人材確保、遠隔操作にロボット自動化を組み合わせた人件費の削減が可能になると説明した。