「BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)など、通常は3年半ほどかけて進めていく予定だったコスト削減の計画を、1年半で実現したいとの要望が増えている」――。財務業務などのBPOサービスを展開する米Genpactの日本法人で社長を務める田中淳一氏は5月下旬、オンライン取材で日本のユーザー企業におけるBPO活用の優先順位が上がっている背景を説明した。
米Genpact日本法人の田中淳一社長
日本企業のBPO活用に対する高まりは、業績予測から少し分かる。米本社の売り上げ伸び率は、2019年度(12月期)が前年度比17%増、2020年度第1四半期が14%増と順調に推移するが、第2四半期以降は新型コロナウイルス感染拡大などの影響からマイナスを予測している。対して、日本法人の2020年度の売り上げ伸び率は前年度比27%増を見込んでいる。2019年度の十数%増を大幅に上回るのは、適用業務がノンコアからコアな領域へ、製造業から金融業や消費財などへと広がっているからだという。
田中社長によると、日本法人がコロナ以前から取り組んできた確度の高い案件だけで、今期売り上げは前年度比で20%増を達成できるという。そこに「新規顧客を含めて、即効性のあるコスト削減や運転資本の最適化など、早期に事業を回復するための相談が増えており、それが後押ししている」(同社広報)
コスト削減は、コロナでますます重要な課題になっている。例えば、運転資金に影響を及ぼす可能性があるので、過払いなど不要な無駄な費用を徹底的に見直す。その1つが部門ごとにバラバラだった間接材調達を一本化すること。ある企業はコピー用紙などの間接材調達にBPOを導入し、数十億円のコスト削減に成功したという。同社は、その10%を成果報酬としてもらうといったビジネスモデルを展開する。
課題はAI活用ビジョンの欠如に
Genpactの日本法人では、AI(人工知能)を取り込んだBPOで、需要拡大に応えることも考えている。背景には、AI活用への期待の高まりがある。米本社がこのほど発表したAIに関する活用調査「AI360レポート」によると、AI導入が加速し、回答企業の約75%がAI活用による優れた成果を得られているという。AIへの投資も増えている。特に日本企業の年間投資額は1000万ドル以上が39%、2000万ドル以上が19%も占める。
この調査は、日本、米国、英国、オーストラリアの4カ国の経営幹部や従業員などに尋ねたもの。日本のAI投資額は英国と並んで高い。田中社長は「海外企業と比較しても、日本企業のAI投資は遅れていない。コアな業務もAIに置き換えて、顧客接点やサービス向上に人材を振り向ける」とし、少子高齢化などによる人材不足がAI活用を推進すると予想する。従業員がAI活用のメリットを理解しているかの質問にも、日本の「はい」が最も高く、AI活用が広がる環境がある。
AI活用によるビジネスへの成果も確実に上がっている。「非常に有益な結果」と「有益な結果」を合わせた日本の回答は66%に達する。ただし、米国の81%、英国の72%、オーストラリアの68%に比べと、少し低い。理由の1つは、外部パートナーの不足や適用領域の明確さなどにあるようだ。経営幹部らのAI活用への期待度の低さにもある。分かりやすくいえば「AI活用に向けたビジョンの欠如」である。
加えて、「混乱期を生き乗り、新たな需要を取り込み、成長する」との経営幹部らの信念や覚悟にもあるだろう。例えば、「自社で大幅な事業変革のために、AIを幅広く導入している」との質問に、米英豪の経営幹部らの56%が「はい」と答えているのに対して、日本の経営者幹部は半分の26%に過ぎない。田中社長は個人的意見と前置きし、その理由を「組織がサイロ化し、部分最適の投資になっている」とみる。
例えば「コストを半減する」と決めたら、ツール導入など技術を議論するのは止めることだ。「仕組みに焦点を当てても、効果が生まれない」(田中社長)からだ。確かに、PoC(実証実験)はするが、実用化に踏み込まない日本企業は少なくない。日本法人はそうした課題解決に向けて、コンサルティング部隊を60人弱に増員した。コロナ禍におけるIT企業の成長率が鈍化している中で、同社が30%近い成長をどう成し遂げるのか注目する。
- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。