COVID-19危機の中で企業が考えるべき「顧客体験」とは何か?
新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)を経験したことで、われわれの購買行動は変化を余儀なくされた。外出自粛の期間中は、カスタマージャーニー上の全てのプロセスをオンラインで行えないかという流れが加速し、企業も消費者も未知の環境に適応しようと、これまでにはなかった試みを経験したのではないだろうか。
一方、リアルの店舗ではこれまでと優先事項が一変し、衛生上の安心・安全の確保が喫緊の課題となっている。ソーシャルディスタンスの確保、対策方法の周知、消毒液の設置や検温の徹底、非接触型の店舗体験――など、抜本的なオペレーションの変革が求められている。これらの取り組みは、直近において必須な重要テーマではあるものの、事態の収束に伴って対策そのものが不要になるものもある、ということに留意したい。一過性のものではなく、中長期的な視点に立ち、「COVID-19を経験した後の消費者の購買行動はどう変容するか」という観点から、収束の先を見据えた取り組みに着手しなければ、他社への競争優位性を獲得できないのではないだろうか。
今回は、消費者に起きた変化のうちCOVID-19以降の世の中でもスタンダードとなるであろう、不可逆な5つの行動変容と、その変化に対して企業がどう対応していくべきかについて述べたい。
図1.COVID-19以降も不可逆な5つの消費に関する行動変容
これらの変容は、大きくはCOVID-19危機によって消費者が経験した以下の流れに由来している。
- 先の見えない不安の中での心理の変化
- 外出自粛やリモートワーク化に伴う半強制的なデジタルの体験と利便性の実感
- 店舗での安全リスク回避の習慣化
全く新しい潮流として生まれたものもあるが、既に兆候が見えていた消費行動がさらに加速したものも多く、以下にて補足を加えたい。
オンライン購買の加速
外出自粛の期間、店舗の閉鎖やリスク回避などの理由からオンライン購買の利用者が増えたことは詳述するまでもないが、中でも移行が遅れていたアパレル業界のECシフトと、高年齢層(60~70代)におけるオンライン購買の加速という2つの実態に注目したい。
従来のアパレル業界では、「試着」がネックとなりオンラインシフトが遅れていたが、自宅の試着室化(返品無料)、手持ちの服のサイズをベースにしたサイズ推奨サービスなどの試みが一部企業で行われており、さらなるEC化と店舗チャネルとの融合(オンラインで試着予約など)が急がれる。加えて、今回の店舗閉鎖期間中にはオンラインでのリアルタイムな接客/購買の動きが拡大した。スタッフが商品を着用し、視聴者から寄せられる素材感やコーディネートの質問に回答する動画アプリを使ったコミュニケーションと、さらに購入までをそのまま実施できるeコマースに利便性を感じた消費者は多く、今後さらに浸透していく見込みだ。
他方、高年齢層の行動も変化している。三井住友カードが「コロナ影響下の消費行動レポート」で発表した調査結果では、日常的にeコマースを利用しているとされる20~30代よりも、高年齢層における増加が著しく、自らの身を守るためにeコマースを活用するという消費行動の変化が見られる(三井住友カード調べ)。オンライン購買を経験した高年齢層はその利便性から、今後もデジタルを利用し続けていくと見られ、今回のCOVID-19は結果的に高年齢層のデジタルシフトのきっかけとなったのではないだろうか。今後はオンラインに流入してくる高年齢層が直感的に操作し、スムーズに購入を完了できる、ということを視点に加えてECサイトを構築していく必要がある。