2019年末から現在まで続くコロナ禍は、世界にさまざまな変化をもたらし、デジタル化もその1つになる。アカマイ・テクノロジーズ 職務執行者社長の山野修氏は、「デジタル化の進展や“巣ごもり需要”といった状況を肌身で感じている」を話す。
CDNから見たデジタル化
コンテンツ配信ネットワーク(CDN)を運営する同社の立場は、実際のトラフィックからこうしたコロナ禍に伴う変化を見ることができるという。
アカマイ・テクノロジーズ 職務執行者社長の山野修氏
「2020年7~9月期には、2019年の同時期の2倍になる世界で160Tbpsを超えるトラフィックを観測した。一概に比較できないが、コロナ禍によって多くのイベントなどが自粛されていても、オンラインで映像を視聴したりオンラインゲームを楽しんだりする需要が増えている」
また、ECサイトはその多くが50%以上も成長しているという。国内ではEC利用者がコロナ禍前の約40%から50%以上に増加したという調査もあり、山野氏は日本でオンラインショッピングの利用が定着化したと見る。
企業のITインフラも、テレワークの緊急導入でVPNリソースがひっ迫するなどの課題が浮上した。同社は、数年前からゼロトラストセキュリティモデルによるセキュリティサービスを訴求してきたが、金融や製造などの大手企業が相次ぎ導入したという。山野氏によれば、同サービスの新規採用件数は3倍以上増加し、売り上げも2.5倍に増えているという。
デジタル化は、企業が厳しいコロナ禍を生き残るための方法の1つになる。
山野氏は、「小売りの場合、メインではないにしても実店舗と合わせてオンラインショッピングを提供していたところが救われているように思う。これまでデジタル化が遅れていると言われてきた官公庁もデジタル庁創設など、いま業務プロセスをデジタルベースに変える取り組みを急ピッチで進み出した」と話し、2021年はデジタルベースの仕組みづくりが潮流になると見る。
なお、アカマイでは、コロナ禍への対応で2020年3月からほぼ100%の在宅勤務体制に移行し、少なくとも2021年6月末までこの方針を継続するという。
「そもそもコロナ禍の前から基本的にオフィスにいてもファイルサーバーにアクセスできない。インターネット経由で必要な業務アプリケーションやクラウドストレージを利用する環境のため、働く場所に左右されなかった。お客さまのセットアップアップやサポートも全てリモートで行っているため影響はない」
社会全体で見れば極めて進んだ対応だが、CDNやセキュリティなどのサービスを提供する企業としては、当然のことのようだ。それでも山野氏は、「どうしても契約書の押印が必要だったり荷物を受け取ったりしなければならないことがあり、出社している担当者には申し訳ない……」とも話している。
同社の在宅勤務制度は、コロナ禍以前は許可のもと週3日まで許容していた。現在は「Future of Work」をテーマにコロナ禍後の働き方を検討したりコンサルティングを受けたりしている。今後は日数制限を撤廃することもあり得るという。
「在宅勤務を経験していることで、多くの企業がオフィスに通うなどの時間やコストの手間を痛感しているはず。評価基準を時間から成果に切り替えなければ、働き方のデジタル化は進まないだろう。現在はペーパーレス化のように社内のDX(デジタル変革)を進めていく段階。その次に、取引先や顧客といった社外におけるDXが進むのではないか」
山野氏は、2021年もデジタル化が進展し、特にUX(ユーザー体験)が問われるとも話す。「DXはどこでも聞くが、UXが抜けていることがある。UXが向上しなければ、遅い、使いづらいとユーザーに避けられる。UXを高めることがビジネスや成果につながる」