ワークマネジメントプラットフォームを提供するAsanaは1月26日、仕事における時間の使い方と習慣がもたらす生産性への影響を分析した年次レポート「仕事の解剖学」を発表した。多くの組織は従来のオフィス環境で通用した仕事のやり方をコロナ禍の分散した労働環境で再現しようと試みているものの、世界各国の従業員は勤務時間の60%を本来の専門スキルや戦略思考を要する業務ではなく、仕事の調整に費やしているという。
Asana Japan 代表取締役 ゼネラルマネージャーの田村元氏
Sapio Researchは2020年10月、Asanaの委託を受けて職場での時間の使い方を理解するために定量調査を実施。オーストラリア、ニュージーランド、フランス、ドイツ、日本、シンガポール、英国、米国の1万3123人のナレッジワーカー(知識労働者)を対象としたアンケートにより、回答者の職場における行動と意欲を調査した。
その結果によると、業界を問わず、あらゆる規模の組織が情報の収集や検索、アプリの切り替え、進捗(しんちょく)会議などに膨大な時間を浪費している。Asana Japan 代表取締役 ゼネラルマネージャーの田村元氏は、そうした業務を「仕事のための仕事」と表現する。従業員数が5000人超規模の企業では、毎週63%の時間が「仕事のための仕事」の処理に費やされているという。
「仕事のための仕事」が1日に占める割合
2020年は、コロナ禍におけるリモートワークなどが集中力の維持や業務の継続を妨げる要因となり、成果物の役割分担、責任者、目的も不明確になる傾向がみられた1年となった。対応が必要なメッセージや会議、ツールが増え、仕事環境はますます困難な状況に陥っている。
例えば、回答者の8割はメールの受信トレイや他のコミュニケーションツールを開いたまま作業をしており、4人に3人が複数のアプリを同時に起動し、絶えず通知を受けなければならない中で仕事をしているという。作業を切り替える際には大きく集中力を低下させ、精神力も消費してしまう。
使用するアプリの数が増えるほど、重複する仕事が増え、生産性低下の原因になる
従業員の87%が毎日2時間近くも残業しており、年間残業時間は2019年の242時間から455時間に跳ね上がった。また、仕事中の会話や雑談の回数は減ったものの、勤務時間の削減にはつながっていない。カジュアルな会話の代わりに不要なビデオ会議が発生するようになり、従業員1人当たり年間157時間が失われている計算になるという。
その他にも、以下のようなグローバルな現状が浮かび上がった。
- 非現実的な期待値や不明確なプロセスが原因で、毎週4件当たり1件(26%)の割合で、期日への遅れが発生している
- チームが既に完了済みの仕事に重複して費やす時間は前年比で30%増加しており、その時間は新入社員では既存社員の2倍に達している
- 勤務時間の増加に伴い、従業員4人中3人は、仕事からプライベートへの切り替えが困難な状態であり、10人中7人は、2020年に1回以上バーンアウト(燃え尽き症候群)を経験した
- 回答者の3分の2近く(62%)が2020年に成功体験から自信を得ることができず、自分を過小評価してしまう心理状態「インポスター症候群」を感じた
その上で、世界各国で生産性の障壁となっている要因の上位3項目は、(1)仕事量が多過ぎること、(2)返信を要するメール、メッセージ、通知の量が多過ぎること、(3)ミーティングやビデオ会議の数が多過ぎること――だという。
日本の従業員については、テキストによるコミュニケーションへの依存度が世界で最も高く、その結果、メッセージやメールが生産性を阻む一番の障壁になっている、と田村氏は指摘。また同氏は、2021年に進めるべき考察として「従来の仕事の仕方のリセット」が必要だと強調した。
具体的には、「仕事のための仕事」を減らし、ワークマネジメントをはじめとするチームの足並みをそろえるためのツールを用意し、ワークライフバランスを重視した柔軟な姿勢が求められる。さらに、開かれた対話の中で仕事を進めていくカルチャーやマインドの醸成も重要となるとする。そうすることで、付加価値の高い本来の仕事の割合を増やしていき、コロナ禍でのレジリエンス(回復力)を高めることが可能になると田村氏は話す。
2021年に進めるべき考察