「ひとり情シス」の本当のところ

第23回:実態調査で判明した「コロナ時代の新たなひとり情シス」の姿

清水博

2021-04-01 07:00

2020年はVUCAそのもの

 2020年12月、中堅企業のひとり情シスの実態を明らかにするために、ひとり情シス・ワーキンググループは「ひとり情シス実態調査」と「中堅企業IT投資動向調査」を実施しました。調査対象は、従業員100~500人の日本国内の中堅企業であり、日本に多く存在する大手企業のグループ子会社や独立系企業の1673社。ITの意思決定に関与する立場の方から回答を集めました。ひとり情シスの経験があり、事情に精通するワーキンググループメンバーが質問項目を作成し、調査結果の裏付けも行いました。

 2020年は、誰にとってもさまざまな変化があったのではないでしょうか。数年前から語られていた「VUCAの時代」をまさに実感したかと思います。VUCAとは、目まぐるしく状況が変化する「Volatility」(変動性・不安定さ)、何が確かな情報か分からない「Uncertainty」(不確実性・不確定さ)、さまざまな要素が絡み合う「Complexity」(複雑性)、会社も個人も明確なプランを出しにくい「Ambiguity」(曖昧性・不明確さ)の頭文字を取ったものです。

 VUCAそのものだった2020年にひとり情シスを取り巻く環境を調査したところ、新しいトレンドが判明しました。

調査で判明したトピックス

1.ひとり情シスは33%と微増

 ひとり情シスの内訳に変化が見られました。ITシステム部門の担当者が1人から2人に増えて「ふたり情シス」になった企業は13%、専任担当者が不在の「ゼロ情シス」から「ひとり情シス」になった企業は14%でした。

2.ひとり情シスの21%が経験3年未満の「ジュニアひとり情シス」

 ひとり情シスの経験が3年未満の「ジュニアひとり情シス」のうち、74%は自身のスキル不足を認識しており、スキル習熟に焦りを感じていることが分かりました。しかし、59%はひとり情シスの仕事にやりがいも感じています。

3.ひとり情シスの転職元の52%はITベンダー系

 ITベンダーからユーザー系企業へ転職するひとり情シスが急増していました。転職希望者も増加しており、今後のトレンドになる可能性を予感させます。

4.ひとり情シスの25%が悲惨な状況にある

 「仕事内容に満足していない」「現状の仕事内容に見合った給料を得ていない」「モチベーションが低い」の3項目全てに該当するひとり情シスが25%も存在しました。

5.ひとり情シス未満の「ひとりヘルプデスク」の割合は27%

 ベンダーとの取次業務やPCのセットアップ、オフィスツールなどのヘルプデスク型支援がメインの「ひとりヘルプデスク」は、情シスとしての全般的な業務要件から乖離(かいり)していました。

6.経営層の89%がIT化やデジタル化に消極的

 IT化やデジタル化を「中期経営計画を組み込んでいる」「社内にIT化・デジタル化の具体的なメッセージを出している」企業は、ひとり情シス企業ではわずか11%しか存在しませんでした。

7.88%の企業でリモートワークが定着せず

 リモートワークを拡大して定常的に運用している企業はわずか12%にとどまりました。承認の押印や取引先への請求書発行などの紙文化からの移行は難しい実状がうかがえます。

8.DXにはほど遠い企業は89%に上る

 デジタルトランスフォーメーション(DX)を進展させることにより企業競争力や顧客満足度の向上、財務状況の改善などの効果を得た企業は、わずか10%ほどでした。予算や人材などがDXの障壁として認識されています。

9.71%の企業がコロナ禍でクラウド利用が進む

 68%の企業が既に何らかのクラウドを利用していました。さらに、今後のサーバー環境にクラウドを優先して検討する企業は71%も存在。クラウド志向の中堅企業が急激に増加しています。

10.IT運用にSIerの支援が必要な企業は63%

 システム管理をサポートする外部委託企業(SIer)への委託業務が増加しており、SIerへの依存度がさらに高まっています。ひとり情シス企業の中には、アウトソーシングにPC管理を検討している企業も増加していました。

 以上が、今回の調査で判明したひとり情シスを取り巻く主要なトレンドです。人員は増加したとはいえ、スキル不足やベンダーへの依存の高さ、経営者のデジタル化の理解不足などの諸問題が浮き彫りになりました。次回から、それぞれのトレンドを深掘りしていきます。

清水博
清水博(しみず・ひろし)
ひとり情シス・ワーキンググループ 座長
早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わり、米ヒューレット・パッカード・アジア太平洋本部のディレクターを歴任、ビジネスPC事業本部長。2015年にデルに入社。上席執行役員。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネスを倍増させ世界トップの部門となる。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。2020年独立。『ひとり情シス』(東洋経済新報社)の著書のほか、ひとり情シス、デジタルトランスフォーメーション関連記事の連載多数。

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