「ひとり情シス」の本当のところ

第24回:ゼロから「ひとり情シス」、一人から「ふたり情シス」へ

清水博

2021-04-06 07:00

社内で初めてのひとり情シス

 ひとり情シス・ワーキンググループが2020年12月に実施した「ひとり情シス実態調査」と「中堅企業IT投資動向調査」によると、従業員100~500人の中堅企業におけるひとり情シスの割合は32.6%と微増していました。増減の変化を調べたところ、ここ数年では大きな変動は見られませんでした。しかし、この内訳を詳細に調べると、新しい傾向が見えてきました。

 さまざまな調査によると従業員100人以下の中小企業におけるひとり情シスの割合は5%未満です。平均すると、従業員が80人を超えた辺りからひとり情シスを配置する傾向です。ただし、この傾向は業種やビジネスモデルによって異なります。今でもITに重きを感じていない中堅企業では、従業員が100人を超えても情シス担当者が存在しないこともあります。

 今回の調査で判明した32.6%のひとり情シス企業のうち、今まで専任担当者が不在の「ゼロ情シス」から「ひとり情シス」となった企業は14.7%でした。リモートワーク環境構築やBCP(事業継続計画)を見据えたバックアップの対応などのため、新規にIT担当者を配置した企業が増えていることが判明しました。一般的なひとり情シスのイメージとして、複数いた情シスのメンバーが減っていき、一人になってしまったという状況を思い浮かべるかもしれません。しかし今回の場合は逆で、社内のIT担当やデジタル担当として初めての社員です。大きな期待が寄せられることと思います。

 さまざまなITベンダーが自社サービスをアピールするプロモーション活動の一環として「過酷なひとり情シス」「悲惨なひとり情シス」「ひとり情シス問題」などと取り上げています。しかし、中堅中小企業のデジタル化の門出でもあるので、不要に不安感を駆り立ててサービスやソリューションを売り込むのではなく、ひとり情シスに本当に役立つ情報を提供してほしいものです。

念願のふたり情シスへ

 一方、ひとりでコツコツ頑張っていても仕事量がどんどん増加して多忙を極めてしまい、かねがね経営層へ増員を要求した結果、ふたり情シスとなった企業も少なくありません。2020年に「ひとり情シス」から二人体制である「ふたり情シス」になった企業は13.2%に上り、かなり多くの企業で情シスの増員傾向が確認できました。

 経営層を何度も説得して得られた待望の二人体制ではありますが、実際のところふたり情シスはとても大変です。筆者も3年ほど前に、本連載の第7回において二人で情シスを運営することの難しさを書きました。しかし、ふたり情シス運営の困難さは過去のものだけではありません。

 ひとり情シスから5人体制にまで組織を拡大した元ひとり情シスの方も、「実は、一人から二人になる時がとても難しかった」と語りました。仕事の割り振りや意見の対立の解消、そして経営層への二人体制にした成果のアピールなど、それまでの忙しさとは異なった苦労を感じたそうです。

 また、IT人材は転職市場でとても注目されています。しかし、優秀な方や欲しいスペックの方を獲得するのは容易ではありません。そのため、二人目の情シスとして期待するスキルセットを身に付けている候補者を見つけることは至難の業です。会社の人事が見つけてくれた候補者は若くて積極的ですが、キーボードタッチがたどたどしく、スマートフォンは得意だがPCはあまり触ったことがないということもあります。情シスの仕事を割り振るどころか、敬語の使い方や電話の受け答えから教えなければならない場合も少なくないようです。とはいえ、このようなスタートからでも大いに成長する方もいれば、全くの期待外れの方もいるため、この時点ではふたり情シスの成否は判断できません。

 このような事態はとても大変な状況に思えますが、元ふたり情シス経験者は「この時期の経験はとても勉強になった。この経験のおかげで今の自分がある」と語りました。会社に一歩も引かない交渉をしたり、未経験者を育てたりした経験は、これまでの自分の価値観や考え方を大きく見直すことや、強い自立心を持つことのきっかけになったそうです。単にふたり情シスの成否だけに目を向けるのではなく、二人目の情シスを積極的にサポートすることによる自分の成長も、自身のキャリアの観点から大切なことだと言えます。

清水博
清水博(しみず・ひろし)
ひとり情シス・ワーキンググループ 座長
早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わり、米ヒューレット・パッカード・アジア太平洋本部のディレクターを歴任、ビジネスPC事業本部長。2015年にデルに入社。上席執行役員。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネスを倍増させ世界トップの部門となる。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。2020年独立。『ひとり情シス』(東洋経済新報社)の著書のほか、ひとり情シス、デジタルトランスフォーメーション関連記事の連載多数。

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