コロナ禍で進んだと言われるデジタルトランスフォーメーション(DX)だが、世界のトップ企業を顧客に持つ大手コンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニー(マッキンゼー)は、日本のDXについて「パイロットのわなに陥っている企業が多い」と警鐘を鳴らす。日本支社 オペレーション研究グループとIoT研究グループを率いるパートナーの加藤智秋氏と鍵谷美宏氏に話を聞いた。
--DXが進んだと言われますが、日本の現状をどう見ていますか。
加藤氏(以下、敬称略):よく言われるように、DXを推進したのは、最高経営責任者(CEO)でも最高デジタル責任者(CDO)でもなく、コロナ禍でした。われわれもDXが進んでいることを実感しています。分りやすいのはビデオ会議です。働き方に影響を与えました。製造や製品開発の現場でも、仕事のやり方に対する柔軟性が高まりつつあると感じます。
そこで、われわれも2020年に「デジタルトランスフォーメーションサービス」を立ち上げました。デジタルを活用した組織変革を進めることで、これまで以上のインパクトを出していくという狙いです。
鍵谷氏(同):アソシエイトパートナーとして、加藤と一緒にデジタルトランスフォーメーションサービスのリードを務めています。製造のサプライチェーンの知識も取り込みながら、全社変革としてのDXを進めるお手伝いをしています。
現場でのデジタルへの抵抗感が一気に弱まり、製造では特に、これまでその場に集まってミーティングしていたところが多かったのですが、ビデオ会議を利用するようになりました。次は、トレーニングもデジタルでできると、活用の範囲を広げるところも出てきました。さらに進んで、特定のプロセスについては、なるべく人が関わらないようにするなど、本気でデジタルを捉える企業が増えたと感じます。
マッキンゼー・アンド・カンパニー、パートナーの加藤智秋氏(左)とアソシエイトパートナーの鍵谷美宏氏
--マッキンゼーは、緊急提言として「デジタル革命の本質:日本のリーダーへのメッセージ」を発表しています。
加藤:われわれの調査でDXへの準備を尋ねたところ、米国や中国では経営者の8割程度が準備しているが、日本は3割程度にとどまることが分かりました。DXの必要性を理解しても、なかなか実行に落とせないという状態だと思います。
その理由として、経営幹部の間で「DXとは何か?」というイメージを伴っていなかったり思惑が一致していなかったり、あるいは、現場に伝わっていなかったりすることが挙げられます。
そこで、日本オフィスに「Digital Capability Center」(DCC)を作りました。動くものを見てもらうと経営者は、「DXとはこういうことか」「こういうことができるのか」と、理解が深まります。そこで、自社はどうなっているのかというギャップに気づき、われわれがお手伝いをしながら、課題を洗い出して優先順位をつけるといったワークショップを実施します。
「Digital Capability Center」では、ミニチュアを使ってDXを見せ、経営層に具体的にイメージしてもらう。奥の画面には、作業員がGPSを装着し、どのように動いているのかを視覚化し、これによりレイアウトを変更するなどして効率化を図ることができる
例えば、一気通貫の製造ラインの生産性を可視化することで、これまで見えなかった無駄や無理が見えてきます。データ可視化のメリットは、経営者だけではなく現場にいる人たちにもあります。「こんなことが起こっているのか」などの気付きが出てくると、「こうすれば、さらに生産性が上がるのでは?」と問題解決の現場化が進みます。
これまでの働き方を変えたくないと思っている人が組織内におり、意識改革も重要になります。そこを支えるリーダーシップまでを含めた変革の仕組みや仕掛けを作っていく必要があります。