量子コンピューティングは、複雑なビジネスの問題に量子力学の不思議な効果を適用することによって、IT産業を根本的に変えてしまう可能性を秘めている。しかし現在の量子コンピューティングは、それよりももっと手前の、ありきたりな問題に悩まされている。それは人材不足だ。
IT人材に対する需要は何年も前から増加傾向にあったが、2020年に入ってから、にわかにテクノロジーに対する依存度が高まったことで、IT人材の獲得競争はそれまで以上に激化した。
専門性の高い技術を扱っている組織では、この問題はさらに深刻だ。例えば量子コンピューティングの分野では、普通の人の履歴書にはあまり書かれることがない、量子論や高度な数学、計算機科学などのさまざまな専門分野のスキルが必要になる。まだ生まれたばかりだが、競争が激しくなりつつあるこの分野では、必要とされる人材は得にくくなる一方だ。
世界初の100万量子ビットの量子コンピューターを作ることを目指している英国の新興企業Universal Quantumで人事部門の責任者を務めるSamantha Edmondson氏は、「(人材プールは)驚くほど小さい」と述べている。
同氏によれば「例えば、私たちが必要としているような専門知識を持つ経験豊富な量子物理学者を見つけようとすれば、世界中のほんの一握りの学術グループの中から選ぶことになる」という。
量子コンピューターは古典的なコンピューターとは本質的に異なる原理で動作するため、問題解決に対する新たなアプローチと、学術、技術、ビジネスに詳しい人材から構成されたスタッフが必要になる。
これらのすべてのスキルを1人で持ち合わせている人材など存在しない。「量子コンピューティングには、あまりにも多くのまったく異なるスキルが必要とされる。私たちは、古典的なハードウェアのエンジニアや、ソフトウェアエンジニア、数学者、シミュレーションやモデリングの専門家を必要としている」とEdmondson氏は言う。
「古典的コンピューターのエンジニアを雇えば物理学の知識を持っておらず、物理学者を雇えば古典的なハードウェア工学の知識はなく、アナログコンピューターの設計も知らない。私たちが直面しているのは、そういう課題だ」
もう1つの本質的な課題は、そもそも、人々に技術に関心を持ってもらうことだ。
最近では学校でITやSTEM(科学、技術、工学、数学)関連の科目を履修する若者が減っている上に、調査によって、若い世代が技術系の仕事に就くことに及び腰であることも明らかになった。