本連載では、少々脇道にそれることもありますが、主題は「Device as a Service」です。ここでいうデバイスは、主に企業内のエンドポイントデバイスですが、私としてはさまざまなデバイスをサービスとして提供していくことは意義があると思っています。そのため、「デバイスという物理的なモノをサービスとして提供するには」というアプローチで、さまざまなお話をさせていただいています。
とはいえ、メインは企業内のエンドポイントです。仕事柄、専門分野はもちろんそちらです。企業内のエンドポイントは、Macや最近ではChromebookの採用も増えてきましたが、今でも90%以上はWindowsです。Windowsが企業内のエンドポイントとして使われるようになってから、実に20年以上の月日が経ちました。
昔は、「OA=オフィスオートメーション」と呼ばれていたことからも分かるように、主に膨大な事務作業を自動化することがWindows導入の目的でした。しかし、メールなどの普及により事務作業のみならず、ビジネスのさまざまな領域で必須のツールとなっていきます。そして、このコロナ禍においてWindows、いわゆるPCは、オフィスそのものと言っても過言ではありません。
コロナ禍によって、「会社に行く」ということとが「PCの前に座る」ということが同義になりました。「Microsoft Teams」などのクラウドサービスが停止することは、通勤での電車が止まるのと、同じインパクトがあります。PCやクラウドサービスを使えないということが、「オフィスに行けず、仕事ができない」という状況と全く同じになってしまいました。
PCは、企業内に普及していく20年以上の歳月の中で次第に重要度を増していき、今やPCがなくては仕事ができません。しかしながら、本連載で度々指摘しているように、PCの運用は20年以上前の技術がベースになっていて、ほとんど進化が見られません。そこで今回から数回にわたり、いまだに不可解な「PC運用のあるある」を解説してみたいと思います。
負荷がかかる「展開」
PCの運用業務の中で最も集中的に負荷がかかるのは「展開」です。ここで言う展開とは、PCを企業向けにセットアップして、ユーザーに届けること。今やPCは、一人一台もしくはそれ以上の時代です。従業員数以上の台数のPCをセットアップしてユーザーに提供するまでには、設定などの作業のみならず、ユーザーに渡す日時、場所を含めてさまざまな調整が必要になり、IT部門にとって頭の痛い仕事です。
PCの展開において企業向けにセットアップするために広く使われている技術が「クローニング」です。クローニングとは、その名前のごとく「マスターPC」といわれる企業の標準的なセットアップが施されたPCのクローン、要はコピーを作ることです。具体的には、マスターPCのストレージ(HDD、SSD)内のOSやアプリを丸ごと「イメージ」という形でデジタルデータに変換し、そのイメージを別のPCのストレージにコピーしていく手法です。一般的に、コピー先とコピー元のPCの機種(メーカー、モデル)は同じものでないとされています。
実は、ここに誤解があります。OSに含まれているドライバーソフトウェア(ドライバー)がほとんどなく、ユニバーサルシリアルバス(USB)のような共通規格もなかった時代であればいざ知らず、今のOSはメーカー独自のドライバーなどをインストールしなくても最低限動きます。その上でWindowsであれば、「Windows Update」にドライバーが含まれています。これはあまり知られていないようですが、今のWindows Updateは、ドライバーのアップデートまで対応しています。各PCメーカーは、Microsoftに必要なドライバーを提供し、継続的にアップデートしています。
イメージを作成する際には、OSからそのPC固有のOSライセンスやセキュリティ識別子(SID)などの情報を削除し、クローニングできるようにするために「Sysprep」というツールが実行されます。Sysprepには、そのハードウェア固有の情報を削除するオプションが提供されています。そのオプションを使用すると、イメージ内のハードウェア固有の情報(主にドライバー)は、全てアンインストールされ、そのイメージをさまざまな機種に展開できるものになります(「一般化」と呼ばれます)。そのイメージをPCに展開した後にWindows Updateを実行すれば、適切なドライバーがインストールされたPCが完成します。
一般化は、イメージ作成ツールの機能として組み込まれていることもありますが、Sysprepでも実現可能なので、Windows標準のコマンドラインの「DISM」でも、サードパーティー製のツールであっても可能です。