新潮流Device as a Serviceの世界

日本企業が放置してきた「Toil」のもたらす問題

松尾太輔 (横河レンタ・リース)

2021-11-02 06:00

 筆者は最近、「日本企業は、もっと『Toil』の撲滅を真剣に考えるべきだ。そのための一手として、Device as a Serviceの導入を検討すべきだ」――このように申し上げる機会が増えています。特にコロナ禍において、今までは何とか回っていた業務の多くが正常に回らなくなっています。それは「Toil」を放置していたからです。では、このToilとは何でしょうか。

 Toilとは、直訳すると「労苦」です。「SRE(Site Reliability Engineering)」という、ウェブサイトやサービスの信頼性向上、価値向上に向けたエンジニアリング的な取り組みを行う方法論に登場する用語です。ここでSREの説明は割愛しますが、このToilという考えは非常に重要だと思っています。

 「Toil=労苦」と言っても、さまざまな意味合いがあると思います。人によっては、仕事そのものが労苦でしかないという人もいるでしょう。ここでいうToilとは、主に下記のようなことを指します。

  1. 手作業であり、繰り返されること。自動化が可能なこと
  2. 主業務に対して、割り込みを発生させること
  3. 長期的な価値を持たないもの。要するに、習熟が不要なこと
  4. 作業量がサービスの成長に比例すること

 先ほど述べたようにSREは、ウェブサイトやサービスの信頼性向上、価値向上を目的としています。当然、その活動の時間の多くは、直接的にウェブサイトやサービスの信頼性や価値を向上することに寄与する生産的な活動に割かれるべきです。しかし、実際の現場では、そうなっていないことが多くあります。さまざまな雑務に追われ、1日の仕事が終わった時に「今日は忙しかったけど実際のところ何をしていたのだろうか」「何かを完了させることができたのだろうか」と、疲労感だけが残るといったような経験のある方は、いらっしゃるでしょう。このような状況を引き起こすことがToilです。

 ここで重要なことは、Toilとは、不要なことではないということです。このコロナ禍において、「不急不要は控える」と言われていますが、Toilは不急でも不要でもないのです。

 ウェブサイトやサービスを提供するためには、タイムリーに対応する必要があり、かつ、対応しなければサービスの提供自体が成り立たない――これがToilです。日本企業は、特にこのToilを放置する傾向が強くあります。

 その理由はさまざまです。多くは一時的なコスト増を嫌って、費用をかけてさまざまな業務の自動化に取り組むということを避けてきたということでしょう。また、雇用が硬直的で、たとえToilの対応が属人化していても問題ない、逆にそのToilを自動化したところで次にその人に何をやらせればいいか分からない、ということもあるでしょう。

 日本では、たとえその仕事を自動化して無くしたとしても、人を減らせないため、コスト削減にはなりにくいのです。Toilに対応している本人も、「それで給料がもらえるから良し」としているということもあるかもしれません。

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