今回は、よくas a Serviceで語られる「体験が重要」の本当の意味について解説したいと思います。前回に引き続き、サービス選定において重要な要素だからです。
Device as a Serviceに限らず、全てのas a Serviceにとって顧客の体験は最も重視すべき要素です。従来の製品開発は、新しい機能をより多く開発すれば、製品が売れました。しかし製品がコモディティー化し、市場拡大の余地が小さくなった昨今、それだけでは製品は売れません。その市場の製品は、どの製品も必要な機能をほとんどそろえていますので機能では差別化できず、多くの競合他社の製品の中に埋もれてしまいます。顧客の体験にどれだけ寄り添えるか、言い換えれば顧客の立場に立ってどれだけ考え製品を作れているかーーただの製品(モノ)ではなく、顧客の体験(コト)として提供できるかが、その製品、サービスの成功と失敗の分水嶺になります。
こう言うと、「そんなの当たり前だろう。昔から言われていることだし、今だって精いっぱいやっている」という声が聞こえてきます。では、新機能はいらないのか、無意味なのかというと、そういう話でもありません。
いまだ機能が製品の価値であることは言うまでもないのでしょうが、それが顧客の体験を踏まえたとびっきりの価値かと言えば、「そうではない状態になってしまってはいませんか?」ということです。少なくとも機能単体では、そんなとびっきりの価値を顧客に感じてもらえることが難しくなっています。その機能一つひとつが生きてくる状況、それを作れているかということが「体験になっているか」ということなのです。
機能は“点”でしかありません。「これができる」「あれができる」という一つの点です。そして、実際の業務は、あれをやって、次にこれをやって、こういう状況になったらそっちをやる、繰り返し似たようなことをやるなど、分岐や繰り返しが入り混じった複雑なワークフローとなっており、点だけでは完了しません。顧客の体験を突き詰めるということは、機能が実際に使われる時のこの複雑なワークフローにまで落とし込めているか、ということに他なりません。
これは、よく「顧客はその機能、製品を使うこと自体が目的ではなく、その先の成果に目的はある」という文脈で語られます。そういうことが考えられていない、点である機能が線となってつながっていない、ワークフローになっていない製品は、豊富な機能があるにもかかわらず、使えない製品の烙印を押されてしまいます。
そして、この機能を使う側の感覚は、多くの人が一般的に使うようになればなるほど、シビアになります。今まで使う側がそんな細かいところまで気にしていなかったというところまでも気になり始め、むしろ、その細かいところで選定されることになるわけです。これが、製品やサービスにとって顧客の体験が重要と言われるようになった理由です。
そう考えるとIT製品には、「この機能を使うか、使わないかは顧客次第です」というものが少なくありません。ぱっと見派手で、必要そうに思うような機能でも、実際に運用してみると使わないということが多くあります。企業におけるIT製品の導入は、これまで設計・構築というプロセスを経ることが一般的だった故に、ベンダー側が機能の提供に終始し、実際にどのように使われるかは、使う側が設計の中で行うものだという考え方が広く浸透していたせいなのかもしれません。
しかし、今は「産消逆転」の時代です。例えば、コロナ禍のテレワークにおいて人々が日常的に使っているTeamsやZoomなどのウェブ会議やチャットは、最初に一般の消費者が利用し始め、その後に企業利用へと拡大しました。コンピューターは、昔は高価で、まずは国家だったり、大企業だったりが使い、コモディティー化の過程で安価になり、一般消費者も利用するようになりました。
クラウドサービスは、低コストでサービスを開始できるIaaSやPaaSなどの普及が後押しする形でまず一般消費者(あるいはスタートアップやベンチャー)に広がり、その後、企業(エンタープライズ)に入ってくるという流れになっています。これが「産消逆転」です。当然ながら、設計・構築なんていうプロセスは、手軽にクラウドサービスを使いこなす一般消費者の頭にはありません。設計・構築なんてプロセスを経なくても、事前に提供側がベストな使い方(ユースケース)を準備できるのかが重要になります。