アバターが新たな雇用を創出する――。仮想空間などで自分の分身となるアバターのサービス事業やプロデュース事業を展開するAVITAが4月中旬、新たなナビゲーションサイトを立ち上げた。アバターの活用や効果をまとめた手引書を公開する狙いは利用者の拡大にある。
同社は2021年6月に設立。アバターの研究者で大阪大学教授の石黒浩氏(代表取締役CEO)と、石黒研究室出身の日本テレビでVTuber事業などを手がけた西口昇吾氏(取締役COO)、USBフラッシュメモリーの生みの親である濱口秀司氏(社外取締役)の3人で立ち上げた。西口氏によれば、6億円近い資金を調達するなど、事業は想像以上の速さで広がり始めている。アバター事業をどう展開していくのだろう。
年齢や障害の制約をなくし、自由に働ける社会に
AVITA 取締役COOの西口昇吾氏
AVITAはアバターを「働くためのツール」と位置付ける。コンピューターグラフィックス(CG)を使ったキャラクターや人間そっくりなデジタルヒューマンのアバターによって、新たな雇用を創出する。別の言い方をすると、高齢者や障害者、引きこもり、子育て中の人でも自由に働ける社会を作る。同社のアバターは、バーチャルとリアルの垣根なくどちらの空間でも働けるのが特徴だという。
アバター活用の典型例は接客サービスになる。販売や案内、相談など目的は多岐にわたる。コミュニケーションの手段にもなる。「リモート接客がまだ広がっていない中、アバターの利点が明確な業務から導入していくと活用をイメージしやすい」(西口氏)
人材サービスを展開するパソナグループは、兵庫県淡路市にアバターセンターを開設。アバターを活用した接客業務サービスを始めた。2021年11~12月には、大阪市の道頓堀・戎橋に期間限定でアバターが接客を行うポップアップストアをオープンした。アバターセンターのスタッフが、現地に設置したデジタルサイネージ(電子看板)上のアバターを遠隔操作し、消費者と会話しながら商品を販売した。その結果、アバターは顧客との関係構築に有効なツールだと分かった。
「初対面なのに、『あの店がおいしいよ』などと敬語を使わず、常連のような会話になっていた」と西口氏。見ず知らずの人がアバターの横で販売を手伝うこともあったという。「リアルの店員を手伝うことはありえないだろう」(同氏)。知識や経験の豊富なスタッフらがアバターを操作しながら、分からないことはスマートフォンで調べ、より内容の濃い会話にしていく。
人と直接対面するよりも、アバターの方がコミュニケーションが「より本質的」になる。年齢や性別、社会的な立場などを気にせず、「本心で向き合えるからだ」(西口氏)という。外見で人を判断してしまうこともある。例えば、怖そうな店員には声をかけづらいものだが、アバターであれば新たなコミュニケーションが生まれる。
西日本旅客鉄道(JR西日本)のグループ会社らは2022年3月、本社オフィスビルに無人の野菜販売所を設けた。これが想像以上に売れたそうだ。野菜に詳しいアバターが「朝採れた新鮮なトマトです。こんな食べ方をすると美味しいです」と話しかけたり、どうやって買えばいいかを教えたりすることで、アバターが無人販売の役に立つと分かった。農家による野菜の無人販売を都会で展開するようなものだ。
こうした事例から見えるのは、リアルな場所で新しい接客の機会を編み出したこと。「欲しいものはEコマース(電子商取引)で手に入る時代だからこそ、リアルな場所が人とつながる重要な意味を持つようになった。新たな発見を生むこともある」(西口氏)